ジャパニーズドリーム
吉本興業が、所属タレントに対し生活保護受給の調査をしていると一部のスポーツ新聞が報じています。真偽はわかりませんが、バカバカしい。トヨタ自動車社員とか三井住友銀行行員の親族に生活保護受給者がいたら、トヨタや住銀に責任があるでしょうか? そんな社員のプライバシーを会社が詮索して「受給を止めなさい。あなたが扶養しなさい」などと命令するのはおかしいでしょう。
それはともかく、もし本当に調査して所属する芸人さんに生活保護を受給している親族がたくさんおられたら、吉本はそのことを誇るべきだと私は思います。
芸人さんの中には(吉本に限らず)自分の実家がいかにド貧乏だったかをネタにしている人が大勢います。日本では「貧困の固定化」「貧困の連鎖」が深刻な問題です。一度貧困状態に転落した家庭はずっと貧しく、抜け出す機会が得られない。貧しい家庭で育った子供は良い教育や就労が得られず、成人になった時に親同様の貧困を繰り返す、という傾向です。
例えば、東京大学の広報資料*1によると 在学生の親の世帯年収は「950万円以上」が53.4%と過半数を占め、「1550万円以上」に限定しても16.6%。他方「450万円未満」は17.6%です。ちなみに国民全体を対象とした厚労省の調査*2では(区分が少しズレますが)年収900万以上が15.7%、1500万以上が3.3%、400万以下が45.1%となっています。この差は、富裕な家庭の子供が、再び富裕になる可能性の高い教育機会を偏って占領している実態です。また国会議員にも首相にも二世三世がゴロゴロしています。
そんな中で、「芸人になる」のは学歴も家系も不問。実力だけで貧乏から脱出し一発逆転で金持ちになれる道=ジャパニーズドリームなのです。社会が避けるべきは貧困の固定化と連鎖、つまり河本家の親も子も梶原家の親も子も、全員が貧困レベルに閉じこめられることです。吉本に入り芸人として成功した事で、親が生活保護を受給しても子供は高額納税者になったのですから、吉本は優れた貧困脱却のエンジンです。
「敗者復活の経路」が社会にいろいろあるのは素晴らしい事。もし吉本の売れっ子芸人に生活保護受給親族がいれば、それは公教育や社会保障制度が十分果たせなかった社会的流動性提供の役割を担ってくれている貴重な実例であり、政府や片山さつき議員は吉本に感謝すべきでしょう。
ついでにもう一点、河本家も梶原家も母子家庭という事実も気になります。
OECDの資料によると、日本は「片親家庭」の貧困率が非常に高いことが指摘されています。下の表は「子供がいる現役世帯*3の相対的貧困率*4(2000年代半ば)」(単位は%)です。
国名 | 全体 | 片親家庭 |
---|---|---|
日本 | 12.5 | 58.7 |
スウェーデン | _3.6 | _7.9 |
韓国 | _9.2 | 26.7 |
ドイツ | 13.2 | 41.5 |
アメリカ | 17.6 | 47.5 |
OECD平均 | 10.6 | 30.8 |
(小塩隆士 著「効率と公平を問う」表3-2(p.84)から一部を抜粋して引用 OECD(2008)Growing Unequal?から小塩氏が作成したもの)
日本の現役世帯全体の貧困率は12.5%でOECD平均をやや上回る程度ですが、大人が一人しかいない世帯に限ると58.7%でOECD加盟国中で最悪になっています*5。
国会議員の先生方には、芸人個人や芸能事務所のバッシングより、何故「日本の子供の貧困問題は、不利な社会経済環境に置かれている世帯で集中的に、しかも深刻な形で発生している」*6のか、その原因と対策を考えていただきたいです。