水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

赤字国債発行に適応した人生

安倍総理は消費税増税を二年半再延期しました。延期とは言うものの、2015年に増税できず2017年も増税できないのですから、2019年もおそらく増税は無理でしょう。日本は、もう財政は再建しないと決めたのだと思います。それはつまり、これからも赤字国債を発行し続けて借金を積み上げて積み上げて、いつか崩壊するまで突っ走るよ、という事でしょう。
日本がそう決めたのなら、どう生きていくことが適応的か考えてみました。話はリカード先生にさかのぼります。

偉大な経済学者リカードは「国債を発行したら、国民は将来の増税を見越して貯蓄を増やし、その分だけ我慢して消費を減らすから負担の先送りにはならないよね」と言いました。別の経済学者バローは「そうして貯めた金は遺産として子に継がれるから、国債の償還が世代を超えても将来世代の負担にはならないじゃん」と言いました。国民がそこまで賢明なのか疑問のある話ですが、発行した国債が国内で消化できているなら、賢明でなくても中立性は成立しているといえます。

賢くない国民の中立命

国民が一人しかいない想定で考えてみます。
たった一人の国民・X氏は税を納めていますが歳出を賄うには不十分で、政府は赤字国債を発行しています。X氏は真面目な倹約家で銀行に1000兆円の預金があり、銀行はその1000兆円で国債を買っています。X氏が死んで預金1000兆円は子=X2氏に相続されました(相続税は無し)。X2氏は親の遺産で遊んで暮らそうと考え、政府に1000兆円返せと要求します。政府は償還資金を国民への課税で調達しますから、課税対象は他ならぬX2氏です。X2氏に逆に国から1000兆円納税しろと命じられてしまいました。X2氏は預金1000兆円を政府に差し出し、その金で国の債務は解消します。(もう少し手続きの段階を増やすと、こうなります。X2氏は海外、あるいは宇宙人から1000兆円借金して納税します。政府は受け取った税金を銀行に渡して、国債証書を回収。銀行のB/Sは資産=国債証書1000兆円分/負債=預金1000兆円から、資産=現金/負債=預金になります。X2氏は預金全額を引き出して海外、あるいは宇宙人に返済して完了です。利息は無しで。途中を省けば預金と国債対消滅する形になります。)
リカードとの違いは自覚の有無です。X氏は増税に備えたつもりではなく、子孫が豊かな暮らしを送れるように金を貯めていたのですが、X2氏は預金を使うことはできません。その金は国債償還に備えた準備金であり実質差し押さえ済みだったからです。
それでも、X2氏が払ったのは全額親の金。X2氏自身の金は一円も払っていないので、将来世代の負担は無かったと言えます。

親から受け継いだ遺産は、均衡財政ならX氏時代に納税して貯められなかったはずの金で、政府が過少な税金しか取らなかったので余って結果的に預金になっていた。卵と鶏のような話ですが、「国民の預金のおかげで国債が消化できた」というのは「国債を発行した分だけ税金を減らしたから金が余って預金できた」とも言えます。
ともあれ、国債が国内で消化できている限り、償還に必要な金は準備済で中立命題は見事に成立しました。しかしこの中立性は、国民が二人以上いるとややこしくなります。

アリとキリギリス

二人目の国民Y氏がいたとします。Y氏はX氏と同額の所得があり、同額の税を納めてきました。違いは、Y氏は人生を謳歌すべく可処分所得はバンバン使う人で預金がないことです。国債を支えているのは、全額X氏の預金1000兆円です。
X&Y氏が同時に死亡し、X2氏とY2氏の世代になります。そこで国債を償還するとします。1000兆円、どう課税するべきでしょう? X2氏とY2氏も同額の所得があるとして500兆円づつ課税すると、X2氏は楽勝です。500兆円払えば償還される1000兆円を受け取れるので、差引500兆円がポケットに入ってきます。一方のY2氏は遺産ゼロで親が払っておくべきだった税金500兆円を支払わされて大変厳しい事態になります。結果、Y2氏からX2氏に500兆円お金が移転されることになります。X2氏が500兆円受け取り、Y2氏は500兆円払う。国全体では差引ゼロ。しかしY2氏が損している事実は変わりません。

「内国債はお金を同じ日本人の右ポケットから左ポケットに動かすようなもの。国内のお金の動きだから損は発生しない」という言い方がマズイのは、あたかも「1億2000万人、誰も損しない」ように聞こえることです。そうじゃない。金の貸し借りがあるのだから、内国債だからこそ国内に利害対立が生まれます。(外国に借りた金なら、国民全員が払う側に揃いますが。)「全体で損がないから問題ない」という言い方が通用するなら、「FXに大金をつぎ込んでも問題ない。全体ではゼロサムで損はない」と言えます。でもあなたが損しないとは限りません。

違う課税の仕方を考えます。もし資産に課税すると(前節のように)X2氏の預金が全額没収されて国債対消滅することになりますが、これには墓の中の故X氏が納得しないでしょう。国債は生前のX氏とY氏が500兆円ずつ納税不足だった為に生じたものなのに、なぜ全額X2氏が負担するのか? Y氏はキリギリスのように浪費して得するのか? 必死に倹約して子供に残したはずの金が全て徴税されるくらいなら、自分もY氏のように贅沢して生きればよかった、となります。
もし、破滅的なハイパーインフレが生じて円建ての預金が紙屑になれば、それはX2氏に課税したのと同じことになります。インフレタックスと呼ばれるものです。インフレで目減りする資産がないY2氏に被害は無く、Y氏がキリギリスのように浪費した金はX氏が(あるいは遺産を相続したX2氏が)負担したことになります。

ここはもうY2氏に500兆円課税すればいい、という人もいるかもしれません。リカードが言ったように将来の増税を見込んで貯蓄すべきだったのに、自分のために使い尽くしたダメ親を呪えばいい。Y氏の納税不足分は子供のY2氏が払え、と。
親のツケを子が背負わされるというのは理不尽ですが、日本は連帯責任が好きな国民。親が貧しければ子供が親を扶養しろ。生活保護を受けるなと言われる国です。親の愚かさの責任は子が背負えという考えもあるかもしれません。
しかし、最後にもう一人、三人目の国民が登場すると理不尽の度が増します。

アリとキリギリスと、ぼっち

Z氏はX&Y氏と同額の所得があり、Y氏と同様に貯蓄せず、Y氏よりもっと豊かな暮らしをしました。何故ならZ氏は子供を作らず養育費がかからなかったからです。
XYZ氏が死に、X2&Y2氏が残されました。国民は二人しか残っていません。国債償還の課税はどうしましょう? 本来なら、XYZ氏が333.3兆円づつ生前に負担しておくべきだった税金。X氏の納税不足分はX2氏が受け継いだ遺産の一部で払えます。Y氏の未納分は子供が生贄として差し出されているので、Y2氏が奴隷のごとく働いて重税に耐えて返します。では子供がいないZ氏の納税不足333.3兆円は誰が背負うべきでしょう? どうやっても理不尽ですが、X2氏かY2氏が負担するしかありません。Z氏はもうこの世にいないので。
逆に言えば、Z氏は得しているのです。払うべき税金を払わずに死に、自分の身代わりとなる生贄の子供も差し出していない。

ぼっち最強説

日本のように多額の国債を累積させ続ける国では、Z氏の生き方が最もお得です。Z氏の生き方を三点にまとめると、

増税に反対し、自分や自己の世代が払うべき税金を払わずに済ます。
②税収不足のため国債を発行するが、それは誰かの貯蓄で賄われる。自分は余計な貯蓄を残さない。
③子供を作らず、将来世代の負担を我が子に負わせない。

こうすれば、赤字国債発行のおかげで実現している一時的な過少税金にフリーライドして、最後は死んで永久に負担から逃げ切ることができます。自分が払わなかった税金は、次世代の誰かが払うことになりますが、どうせ他人の子供ですから好きなだけ揉めて負担を押し付け合えばいい。
合言葉は「自分の金は全部自分で使い切って、さっさと死ね」です。あ、死ねと言うのは誰か他人に言っているのではなく、自分への言葉です。早目に死んじゃおう、ってことです。

ぼっち、実は最強ではなかった説

この説の弱点は、財政がいつ破綻するか不明な点。自分が死ぬまで赤字国債が持つかどうかわからない点です。