なぜ受験に革命は起きなかったのか?
受験シーズンも終わり、もうすぐ新学年度です。本来なら今年、日本の受験には大きな変化が起きていたはずでした。なぜなら昨年の今頃、日本学生支援機構がこう発表していたからです。
奨学金の貸与をしている独立行政法人・日本学生支援機構は新年度(2016年度のこと:筆者注)から、奨学金の返済が滞っている人の率(未返済率)を、大学や専修学校など学校別に公表すると決めた。
http://www.asahi.com/articles/ASJ3K52W4J3KUTIL02L.html
滞納の多寡、すなわちそこに通ってもロクな就職につながらない学校なのか、まっとうな就職が出来る学校なのかが2016年に遂に明らかになることで、2017年の受験では学校の人気ランキングに変動が起きるはずでした。十把ひとからげにされているFラン大や専門学校にも学校ごとに意外な差があったかもしれず、未返済率を手掛かりに18歳の若者もその親も、より適切な学校選びができていたはずだったのです。
しかし調べた限り、学校別未返済率は公表されていないように思えます。(もし私の調べ方が悪く既に発表されているのでしたら、大変申し訳ないのですが、)googleで検索してもそれらしい発表や報道は見当たらず、日本学生支援機構のサイトにある奨学金関連の2016年度分プレスリリースを見ても、
該当するものがありません。同サイトを見ていくと「JASSOの事業のご理解のために」というページがあり、11月4日に更新された「奨学金事業への理解を深めていただくために〔報道等を見て関心を持ってくださった皆様に向けたデータ集〕」 というpdf資料が公表されています(なぜかこのことはプレスリリースにはありません)。
しかしここに出ているのは、上記のような全体のデータだけで学校別ではありません。
メディアへのお願い
これはメディアの方にお願いしたいのですが、どなたか日本学生支援機構に取材していただけないでしょうか。何故、公表しなかったのか? 公表するという話はどうなってしまったのか? どこかからの圧力ですか?
昨年、日本学生支援機構の遠藤理事長は東洋経済onlineの取材にこう答えています。
――大学別の延滞率は近々、日本学生支援機構からも公表される予定になっているということですね。
http://toyokeizai.net/articles/-/101742?page=3
われわれは独立行政法人ですから、中期目標というものを与えられています。文部科学省の評価委員会によって、第三期中期計画の中で定められているんですよ。平成28(2016)年度の夏頃以降に公表するということになっています。
「2016年度の夏頃以降」。でも夏秋冬を過ぎて、もう春で2017年度に入ってしまいますが、どうなっているんでしょうか? 東洋経済onlineの記事には、こんなグラフも出ています。
これで見ると、延滞率ワースト10の学校では、全体平均の6倍もの高延滞率になっています。これは一体どういう学校なのか、私たちは(そして進学しようとしている18歳の若者やその親は)知るべきではないでしょうか?
学校淘汰の波
学校別延滞率を早く公表すべきだと考える理由が三つあります。一つ目は学校淘汰のタイミングです。
今年受験したのは1998年生まれの人たち。グラフの赤矢印の年です。これを見ると分かるように、第二次ベビーブーム以降ぐんぐん減っていた出生数が、1990年生まれから98年生まれまで割と横這いです。90年の出生数が122万2000人で98年が120万3000人。たまたま今年辺りまで、18歳人口は一時的に維持されていたのです。でもここから先、再び減っていきます。グラフにはありませんが、2016年の出生数は推計98万1000人で遂に100万人を割ってしまいました。来年からの18年間で大学・専門学校の顧客である18歳人口は22万2000人、率にして18.5%減ります。まさに今から学校淘汰の時代がやってきます。
同じ淘汰するなら正しい淘汰をしたい。ダメな学校をつぶし良い学校を残す、その判断の一助として、延滞率という情報を「淘汰が起きる前に」知る必要があります。つまり今です。
人手不足と言う隠れ蓑
二つ目は人手不足です。先日、こんなニュースがありました。
今年3月に卒業する大学生の2月1日時点の就職内定率は前年同期比2.8ポイント増の90.6%となり、この時期としては比較可能な2000年以降で最も高くなったことが17日、文部科学省と厚生労働省の調査で分かった。文科省は「人手不足が続き、企業の高い採用意欲が続いている」と分析している。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG16H6Z_X10C17A3CR8000/
人手不足で就職状況は改善しているので、延滞率は下がっていくだろうと思われます。それはとても良いことなのですが、劣悪な教育を受けても就職できる、というのは「教育の劣悪さ」が隠されていくことでもあります。ダメな学校が見つけられなくなります。この先も人手不足は構造的に続くと予想されるので、その厚くなるヴェールの中にダメ学校が隠される前に、早く延滞率を知る必要があります。
給付型奨学金の行方
最後は給付型奨学金です。今年の1月31日にこんな記事が出ています。
政府は31日、返還不要の給付型奨学金の創設に関する日本学生支援機構法改正案を閣議決定した。これまで「貸与」しかなかった同機構の目的と業務に「支給」を加え、給付型奨学金のための基金の設置も盛り込んだ。4月1日施行の予定。
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO10862290Z11C16A2CR8000/
(中略)
2017年度から私立の下宿生ら約2800人を対象に先行実施。18年度から1学年当たり約2万人を対象に本格実施する。〔共同〕
一部は先行して今年度から、来年度から本格的に給付型奨学金制度が始まります。私はそれには賛成で、貧しい家庭の子供に教育の機会が提供されるのはとても良いことだと思います。ただ、その奨学金は子供たちの役に立つ教育に使いたい。劣悪な教育を提供しているダメ大学やダメ専門学校の経営者や講師たちに金を垂れ流す道具にはしたくありません。その為にも延滞率を公表し、学校選びに活用してもらいたいと思います。
マスコミは森友学園騒動で盛り上がっていますが、あの小学校は仮に設置されても一学年80名程度の予定だったらしいので全学で500名程度でしょう(しかも認可は取消だし)。他方で奨学金は、先に紹介した「奨学金事業への理解を深めていただくために」に、
平成27年度には、132万人の学生に1兆638億円の奨学金を貸与しました。
と書かれています。遥かに影響がでかい話です。メディアの方々にはぜひ、奨学金問題のフォローもお願いしたいと思います。いつのまにか情報公開が有耶無耶にされないように。