水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

資産調査をするほど生活保護費が増えていく二つの現実

(5/28タイトル変えました。あれ?検索したのとなんか違う、と思われた方、ご了解くださいませ)
お笑いコンビ「次長課長河本準一氏の母親が最近まで生活保護を受給していた事がバッシングを集め、厚労省は便乗するように「扶養義務を果たさせるよう、運用を厳格化することを決め」、そのために「申請者や扶養義務者の収入や資産を正確に把握できるよう、金融機関の「本店一括照会方式」を実施する」ことにしたそうです。
確かに世の中には悪いヤツもいます。「ベンツ乗ってるヤクザが生活保護を受給している」的な偽装貧乏もあるでしょうから、そうした不正を排除するのは良い事です。しかし本人や親族の収入資産を調べることは、厚労省の思惑(?)のように生活保護費を削減するだけでは済まず、そこが重要だろうと思います。

見つかるのは光か闇か?

河本氏のように親族の収入を洗ったら息子はン千万を稼ぐ金持ちでした、などというケースは宝くじに当たる程度の確率でしか発見されず、むしろ調査で大量に見つかるのはその逆。親族もまた貧しかったという事例でしょう。よく指摘される「補足率」と「貧困の連鎖」の問題です。
生活保護の受給者数は200万人を突破し過去最悪と言われますが、人口に占める比率は諸外国に比べればずっと低く、その理由は日本が豊かなのではなく補足率が低いことだと言われています。本来なら受給する資格のある低所得者のうち実際に受給している人が少ない、受給できてない人が多いという事です。補足率の推計はいろいろありますが、13%*1とか17.8%*2とか高くても19.7%*3で大半は未受給。つまり探せば「貧困なのに生活保護受けてない人」は国内にゴロゴロしているのです*4
もう一つは貧困の連鎖。貧しい家庭で育った子供は十分な教育機会や良い就業に恵まれず、成人になると親同様の貧困を繰り返す傾向です。つまり貧しい人の周囲には貧しい人が集まっている確率が高いわけです。
この「二つの現実」の結果、親が生活保護を申請しに来て、その子の収入を「厳格に」調べ上げると、なんのことはない「子供の方も、本来なら生活保護を申請できるワープア層だった」と判明するケースが続出するでしょう。逆も同じで、申請者の親を調べても、これまた悲惨な現状を見つけてしまう訳です。兄弟姉妹、叔父叔母など3親等まで調べたりすれば、むしろ火に油を注ぐ結果で一気に5人6人の要保護者が見つかる場合もあるでしょう。現状の補足率の低さを考えれば、河本氏ケース一件を見つける間に、芋づる貧困ケースが何十件も出てくるかもしれません。
重要なのはその時、政府や市役所がどうするかです。「あなただけでなく、あなたのお子さんも(又は親も)生活保護を申請できます」と教えてくれるのか。それとも「不都合な真実」は見て見ぬふりをするのか?です。調べるほど生活保護対象者が増加すると「水際作戦」から「余計なことは教えない」作戦へ、弱者切り捨て拡大に走る役所が出てきそうな気はします。

片山さつき議員への期待

そんな心配を吹き飛ばしてくれる人がいます。片山さつき議員、今回の騒動を「芸能ニュース」から「政治問題」に加速させた人物です。
片山氏は生活保護の厳正な受給に大変心を砕いておられます。Official Blog 5月2日分でも不正受給を厳しく批判しつつ「生活保護は、本当に困窮している方にはしっかり届き、」と書かれています。したがって今回、河本氏たった一件の支給停止に、これほど徹底的に、執拗に、多大な時間と労力を割いておられるのですから、今後明らかになるであろう十万人百万人の「受給資格があるのに受給できていない人」が公正に生活保護が受給できるようにするためにも、一人一人に対し同じくらいの時間と労力を割いて下さるものと思われます。
河本氏ケースで片山議員は「不適切な受給額を返納し、本人が直接説明すべきと提案」したそうですので、どこかの市役所が水際作戦などで不当に生活保護の支給を拒否していた場合も、「受給していたはずの額を遡って支給し、何故これまで支給しなかったのか責任者が直接説明すべき」と役所に対し提案してくれるはずです、きっと。
(そんなことはあり得ないと思いますが)もし片山議員が助けてくれなかった場合は、なぜ一個人の支給を「停止」させることに、あれほど国会議員としての影響力を行使しておきながら、困窮している人の支給「開始」には行動しないのか?、国民に対し理由を説明をする義務があるでしょう。さぁ、困窮しているのに役所に行っても申請用紙をもらえないでいる方、追い返されている方、厳正公平な処遇を求めて片山さつき議員に Let's アクセス!!

政府の責任

などと皮肉を言っても始まりません。
これまで日本政府は国内の貧困を詳しく補足することに消極的でした*5生活保護も水際作戦で追い返して自助努力を過度に強要し、2007年の「おにぎり食べたい」餓死や、最近も「札幌・姉妹孤立死」という悲劇的な事例を出してきました。貧困の実態を知るほど、社会保障や再分配の不足、生活保護の無支給ぶりが見えてくるので、あえて見ないようにしてきたとも思えます。
今回の資産調査や親族扶養の追求は、政府が目をそらせてきた実態をも明らかにするでしょう。(河本氏のように)支給を打ち切るのに都合よい情報だけを武器に使い、他方で把握した貧困を見捨てるなら日本は酷い国になってしまいます。親族扶養も、余裕のない家族に強要すれば共倒れを招きかねません。「おにぎり食べたい」が「一家心中」に格上げされるのは見たくありません。
片山さつき議員の「世論放火」に煽られて矢継ぎ早に対策を打ち出すのは結構ですが、結果的に生活保護費を削るどころか増大させなければならないような状況が判明した時に、その事実を公開し対策を打つ覚悟があるのか? そもそも不都合な情報は本省に届くのか?現場で闇に葬られるのか? 政府及び小宮山大臣の職責は片山議員なんぞよりずっと重いと思います。

*1:この論文(pdf注意)

*2:このレポート(pdf注意)

*3:このblogの中の最高値=④橘木俊昭・浦川邦夫(2006)

*4:諸外国の補足率は、「17.8%」のレポート内で紹介されているように、独の37%〜英の78-88%となっています。

*5:例えばこちらの資料など(pdf注意)