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水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

いつのまにか、宝くじは

12月22日まで年末ジャンボ宝くじが販売されていますが、今年の年末ジャンボは、ジャンボ宝くじ史上に残る(?)変更が行われています。1等前後賞合わせて10億円の大台到達!、もありますが、もう一つ。2001年から続けてきた「1等当せん確率1000万分の1」を放棄し、「2000万分の1」へ下げられました。1等に当たる確率が半減したのです。

当せん金と当せん確率の、非トレードオフ

当せん金が増えれば当せん確率が下がるのは本来は自然な話ですが、これまでジャンボ宝くじは1等当せん金が2億円でも5億円でも、確率は1000万分の1を維持してきました。

上図1は様々な年の年末ジャンボの当せん金配分を示したものです。
左端は2001年、1等2億円だった時の配分です。上からオレンジ色の部分が1等当せん金、黄色が前後賞、水色が2等以下(但し末等300円を除く)、緑が末等300円に充当される当せん金、下半分の灰色部分が非当せん金=胴元*1の取り分です。胴元の取り分が多い話は置いておいて、2等から6等3000円までに配分される水色が広く、それだけ2等や3等に当たりやすいわけです。
左から二列目は2014年、1等5億円での配分です。1等&前後賞に充当される金が大幅に増額し、末等は固定(300円当せん確率10分の1)なので、間の水色が狭くなっています。水色部分を減らすため、2001年の2等は1億円で当せん確率1000万分の5でしたが、2014年の2等は2000万円で当せん確率1000万分の2になっています。
本来なら1等の当せん金増は1等の当せん確率減とトレードオフになるところ、2等以下の当せん金や当せん確率を下げることで1等の確率は維持してきた仕組みです。
で、左から三列目の2015(仮)は、今年の年末ジャンボの1等を従来通り1000万分の1で出そうとした場合の仮想配分です。1等+前後賞を10億円にまで上げると、水色が少なくなり過ぎて2等以下の当せん金を組み立てるのが困難です。ので、右端が当せん確率を2000万分の1に下げた現実の配分になります。

気が付けば、ピンチの宝くじ

禁断の一手、当せん確率1000万分の1を放棄してまでも当せん金を10億円に引き上げたのは、近年、宝くじの売上が低下しているためです。下図2は、宝くじ売上の推移です。

90年代後半、約8000億円で推移していた売上が、99年度から2001年度にかけて急増します。その原動力は99年に始まったミニロトと翌2000年10月に始まったロト6で、以降しばらく一兆円超えをキープしています。売上のピークは2005年度の1兆1047億円。2006年度から売上は下降トレンドに入り、昨年2014年度の売上は9007億円とピーク比で18.5%減となっています。
おそらく2009年度に売上げが一兆円を割ったあたりで、総務省は本気で「ヤバい」と感じたと思われます。そこから2014年度の9007億円まで何があったのか? お役所は決して事態を漫然と放置してきたわけではありません。図1で見たように、売上の半分が自分たちの金になるのですから、そこは必死です。本気と書いてマジです。
ここで、総務省の苦闘を振り返ってみたいと思います。

総務省の万策

図3は、2005年以降の年末ジャンボ(一部、グリーンジャンボサマージャンボを含む)の1等前後賞当せん金の推移を棒グラフで示しつつ、吹き出しで各年の主要な動きを紹介しています。順に説明します。

2010年度:
この年、サマージャンボと同時に「1000万サマー」が発売されました。1等当せん金を抑えて当せん確率を最大限上げたものです。総務省官僚は、「庶民どもが求めているのは、更なる高額当せんより当せんチャンスの増大ではないか」と考えたのです。
この考えは、試行錯誤の末に一定の成果を見ます。「1000万サマー」は翌2011年に「2000万サマー」に変更。更に2013年から2014年にかけて、1等7000万円の「年末ジャンボミニ」、5000万円の「ドリームジャンボミニ」、6000万円の「サマージャンボミニ」へと継承されます。すごくないですか? amazonが価格をいじって消費者の食い付きを測定していることが知られていますが、我が宝くじ軍団も負けてはいません。1000万円刻みの調整で庶民の食い付きポイントを探しています。
ちなみに2014年、本家年末ジャンボの売上1197億円に対し、ジャンボミニは532億円。四割強。そこそこの規模に育っていますが、本家にとって代われるほどではない。まぁNMB48くらいな感じです。なお今年2015年は、ドリームミニ・サマーミニ・年末ミニすべてが7000万円になっています。

2011年度:
この年、まずロト6の抽せんを週二回に増やしました。また年末ジャンボは、当せん金はそのままにして、当せん確率を1000万分の2に上げました。確率1000万分の2は2000年以来のこと。(ちなみに、昔、1等当せん金が6000万円だった頃は確率1000万分の6という年もありました。)
ともあれ、この二つは前年と同じ「庶民の望みはチャンス増大だろう」派の戦術です。結果は当否まちまちでした。ロト6の売上は前年の2121億円から2919億円へ約800億円もアップしましたが、年末ジャンボの方は期待外れだったようで、当せん確率アップはこの一年で打ち切りになります。
年度の最後、2012年2月のグリーンジャンボでは逆のテストが行われました。1999年から続いていた「1等2億円+前後賞各5000万円」から「1等3億円+前後賞各1億円」へ、当せん金を増額します(図3参照)。つまり「庶民の望みは高額当せんだろう」派の戦術テストです。
1等3億円は、当時の証票法の限度額です。それまで長年の1等2億円は、法の枠を少し余らせても売上が確保できていた余裕の表れでした。その余裕をここで使い切ったのです。
当該ジャンボは「東日本大震災復興支援宝くじ」と銘打ったこともあってか、前年の462億円から1104億円へと約640億円アップします。おかげで、同年度売上高は一兆円を回復します(図2参照)。
1等前後賞計5億円化の成功は、「庶民が欲しがっているのは高額当せんなのか」と総務省官僚に感じさせたでしょう。

2012年度:
同年4月、当せん金付証票法が13年ぶりに改正され、当せん金の限度はくじ券売価300円の100万倍=3億円から、250万倍=7億5000万円への引き上げられました。射幸性をあおり過ぎてはいけないから法で規制されているはずなのですが、売上が落ちると限度が引き上げられる。一体、誰のための法なのか? 実に不思議な話ではあります。
同年のサマージャンボで、さっそく改正法が活用され、1等が4億円にアップされます(図3参照)。ついこの間2億から3億に上げたばかりなのに、早くも4億へ。「庶民の望みは高額当せんだ」派の鼻息が聞こえてきます。
更に同年の年末ジャンボは、1等4億円に加えて前後賞各1億円へ増額(図3参照)。「ほらほら、お前ら庶民どもが欲しがっているのはこれだろ? 高額当せんだろ? 前後賞にもう1億円上乗せしてやったぞ。これで売れるだろ」という官僚の勝利宣言が聞こえてきそうなのですが、これがうまくいきません。2012年度の売上はあっさり一兆円を再び割ります(図2参照)。

2013年度:
同年は更なる高額化が推進されます。4月にロト7がスタートしました。キャリーオーバー発生時は1等最大8億円。超高額宝くじの投入です。また、同年の年末ジャンボは1等5億円へ、またもまたも1億円の上積みを行いました。「さすがにこれで十分だろう。もうそろそろ買うよな? 頼むから買ってくれ」と官僚は祈ったでしょうか?
しかし、これらの高額化戦術が機能しません。2013年度の売上増はごくわずか(図2参照)。かつて、1999年からのミニロト・ロト6投入で売上を3000億円伸ばした勢いは、今はもうありません。

2014年度:
官僚が呆然と立ち尽くした年。2014年はそんな年かもしれません。2010年以来、息つく暇もなくパンチを繰り出してきたのに、ロト7の売上は前年の1299億円から1198億円へ、早くも二年目にして息切れ101億円のダウン。年末ジャンボ(ミニとの合計)売上1729億円は前年比-8.1%のダウン。総売上も前年比-4.6%の9007億円。

そして2015年

そんな状態で迎えたのが、今年2015年です。もし、あなたが総務省の官僚で、庶民どもに一枚でも多く宝くじを買わせたいとしたら、どうしますか?
官僚が出した答えは更なる高額化でした。年末ジャンボ宝くじ「1等前後賞合わせて10億円」は、こうして打ち出されたのです。戦艦大和、投入です。
官僚の間でも「さすがにこれは違うのではないか」という声があったのではないかと思います。わずか4年前には、1等前後賞合わせて3億円でした。それが10億円。3.33倍。ものすごいインフレです。黒田日銀の異次元金融緩和の影響は、こんなところに出ていたのでしょうか? アベノミクスもびっくりです。
5億円を7億円にしても効果なかったものが、10億円にして売れるのか? 黒田日銀でさえ、バズーカを二度撃ったあとは控えています。三発目を撃たないのは、それを撃つと逆に金融政策が無力だと確認されてしまうからかもしれません。でも、宝くじは、撃ちます。証票法の限度額は7億5000万円。今回の1等7億円は、ほぼ限度を使い切っています。本来10年くらいかけて小出しにするはずの余力を、3年半で撃ち尽くし。戦力の出し惜しみはしない、でしょうか。

今年の年末ジャンボの売上はどうなるのか?楽しみです。ちなみに、2014年の年末ジャンボ売上実績1197億円に対して、今年の発売計画は1620億円。35%増の見通しですが、どうかなぁ。
ついでに言えば、ここへきて射幸性が効かなくなっているのは何故か? 庶民のサイフに何が起きているのか? 行動経済学的に、興味深い題材でもある気がします。


おまけ・私なら、どうする?

以下は蛇足です。もし自分が宝くじを売る立場だったらどうするかを考えてみます。

総務省の官僚さんたちは万策尽くしているように見えて、実はやっていることは当せん金と当せん確率の組み合わせをいじっているばかりです。もう、そこは十分に探したし、これ以上順列組合せをいくら掘っても、そこに正解はないと思えます。(もし今年の年末10億円がヒットしたら「ごめんなさい」と言うしかないですが、そうなりそうに思えません。)答えはもっと違う場所にあるはず。

現状の「ジャンボ」と「ロト」という二本柱は、あれこれ工夫しても更なる悪化を防ぐのがせいぜいそうなので、売上を伸ばすには三本目の新商品が必要です。で、それはきっとネットの中というかスマホにあるはずです。

今、宝くじってネットで買えることをご存知ですか? あまり知られていないかもしれません。それもそのはずで、みずほ・楽天ジャパンネット銀行のいずれかにネットバンク口座があれば、ナンバーズ3とナンバーズ4が買える、と言う、いかにも中途半端な内容です(みずほ銀行に限り、ジャンボ等も買えます。また、来年2016年1月から、ミニロト・ロト6・ロト7が買えるようになります)。

ここを、きちんと取り組む必要があると思います。銀行口座と紐付けでなく、アプリ化して決済方法も増やすべきですし、最大の問題は商品の中身です。

最初は、「宝くじのソシャゲ化」を考えました。
今、ソシャゲにお金をつぎ込む人々が大勢います。時間もかけて課金もしてガチャ引いて、それで手に入るものが、液晶画面に表示されるちゃっちいイラストだったりしますが、それが「数億円手に入るかもしれない宝くじ」より強い引力があるわけです。そこに吸い取られているお金を取り返しに行かねばなりません。
努力や工夫が報われる感覚、勝利、対戦、協力、などを通じた楽しさに魅力があるので、宝くじもいっそ宝くじを売るのでなく、まずゲームありきで、ゲームを優位に進めるために課金して買うのが「宝くじ」。で、ゲームに勝てるだけでなく運が良ければお金も当る。「ロトロト・プロジェクト」とか「パズル&ナンバーズ」的な商品を、と考えましたが、これは無理そう。
普通のゲームなら課金した金はゲーム会社に入りますが、宝くじだと、売上の46%くらいは当せん金として払い戻しが必要で、41%ほどは地方自治体にばらまく金として総務省に召し上げられるので、ゲーム会社にはカスカスの手数料しか残らず、開発・運営費がペイしそうにありません。できるのは「購入者限定・クーちゃんスタンプ」を配るくらいでしょうか。
難しい。

二つ目の案は、「ブロック宝くじの再起動」です。
ジャンボのように全国で売られている宝くじの他に、全国を四地域に分けたブロック宝くじというものがあるのですが、形骸化しています。売上も少なく、ブロック別と言いつつ実際は、同じ内容のくじが同じ時期にどのブロックでも売られています。
この四地域をもっと細かく、八地方とか47都道府県別か、いっそ地方自治体別にし、法の範囲内で自由に宝くじの設計販売を認めます。かつ、ネット経由では好きな地域のくじが買えるようにします。東京の住人が「九州宝くじ」「青森県宝くじ」や「明石市宝くじ」といった独自商品を買える。地方自治体間の競争を持ち込む。どこかの地域がユニークな宝くじを思いつけば、売上が増え、その地方自治体に入る金が増えます。他の自治体も対抗して魅力ある宝くじを開発をする。「ふるさと納税」が地方のアイデアを引き出した仕組みの宝くじ版です。

三つ目の案は、「自己承認欲求の刺激策」です。
ソーシャルメディアの魅力を宝くじに持ち込みたい、という考えです。
スマホ用に当せん確率が100分の1程度の当たりやすい宝くじを設計し、ユーザーはハンドルネームを登録して、どんな数字の組み合わせを買ったか事前に公表出来て、当たると公式に認定されて自慢できる。誰が何回当て、何円獲得したかランキングで競える。確率100分の1なら、一万人参加すれば二連続、百万人参加すれば三連続で当てる人間が出るので、結構「予想」「連覇」を巡って盛り上がりそうな気もするのですが。第一案の「ソシャゲ化」に近い、ログインした先で宝くじを売っているだけでなく、宝くじをネタにしたコミュニティがあって人が集まり盛り上がる仕組みが必要だと思います。

うーん、こんなところでしょうか。

*1:総務省地方自治体・みずほ銀行・販売業者等