水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

法律を守る迷惑な人たち

法律は、守らない人が多数派になると、守る方が社会の迷惑になったりします。

制限時速「40km」という看板が道路脇に立っていても、みんなが時速50kmあたりで流している時に一台だけが「いや、法律だから」といって40kmで走ると車の流れは混乱して、むしろ追突事故を誘発しかねません。

パチンコで勝てば換金できます。ふらりと入った店で「ケイヒンコーカンジョ? はて、それは何でしょう」などと言われるとトラブルになります。大学一年生の新歓コンパで一人ひとり、法律守る人(酒飲まない)と法律守らない人(酒飲む)が入り混じっていると面倒です。

法律を守るのか破るのか、は社会の空気によってどちらか一方に収斂していく引力があります。


労基法を守る迷惑

ブラック企業に残業代を払えと言うと、「そんなことしたら会社が倒産しますよ。それでもいいんですか?」と反論されます。実際その通りで、ライバル同業他社が残業代を払わないことでコストを削減して低価格を実現している時に、ソコだけがバカ正直に残業代を払えばコスト競争に敗れ、本当に倒産しかねません。

みんなが夜遅くまで働いている時に、一人だけが労基法を振りかざして「所定労働時間は8時間だから、定時で帰ります」と言ったり、誰も有給休暇を使っていない中で取得しようとする人は、「お前が定時で帰るせいで(あるいは休暇を取るせいで)仕事が他の人の負担になる迷惑を考えろ」と言われます。
そして、労基法は守らないもの、という空気は労基法以外にも波及します。

今の日本で、妊娠した女性がマタハラを受け、子育てしながら働こうとする人が迷惑がられ、生活保護を受給しようとする人がバッシングされるのは、彼らが法律を守る迷惑な人たちだからではないかと思います。

みんなが長時間労働しているのに、子育て中の人だけ先に帰るのは、車の流れの中で一台だけ40kmでノロノロ走らせているように和を乱す行為です。まして、育児休業法のように労基法より「贅沢」な法律が条文通り守られるのは論外です。同様に、働いている人たちが労基法に定めた残業代をもらえないのに、働いていない人が生活保護法の条文通り保護費を受給できるのはおかしい、と批判されるのも仕方ありません。

近年、ブラックバイトが取りざたされています。学生バイトが過大な責任を負わされたり、学校に出席できなくなるほど長時間シフトを入れられたり、試験期間中まで働かされる問題ですが、これも、大人が労基法を守らず劣悪な労働が放置されているから、いつのまにか学生も守られなくなったのだと思います。
妊婦や子育て中の人が守られないように、生活困窮者が守られないように、引力が今や学生にまで感染を広げたのでしょう。


隗より始めよ、としての労働基準法

育児休業や生活保護を法律通り守るためには、まずみんなで労基法を守る必要があると思います。
毎日あたりまえに定時で帰る。もし残業すれば残業代が働いただけ支払われる。有給休暇はすべて行使する。風邪をひいたら病気休暇を取り、身内に不幸があれば忌引き休暇を取る。有給を「休まざるを得ない日」のために取っておかない。ノルマを自腹で負担したりしない。などなど。

圧倒的大多数である、労基法で働く人達が「法律を破る派」を形成している時に、少数派に過ぎない育休取得者や生活保護受給者が「法律を守りましょう」と主張しても、邪魔者扱いされてしまいます。オセロで黒に挟まれたように、白は裏返されてしまいます。

最近、似たような構図の話がありました。基礎杭が地盤にしっかり届いていないと、その上にどれほど立派なマンションを乗せても、全部傾く。育児休暇も生活保護も、守られない労基法の上に乗せては砂上の楼閣になっています。

と、時事ネタを交えた喩え話にドヤ顔してみます。え、もうその話は古いって? じ、じゃあ、もっと最近の話題を使いますよ。自民党の宮崎謙介議員が12月23日、blogで「私は産後一カ月は妻を助け、子供を育てるために育児休暇をとる決意をしました。」と発表し賛否両論の騒ぎとなりました。反対する民主党蓮舫議員のtwitterがコレ↓

このツイートも賛否両論となりましたが、今日は議員育休の是非には触れません。で、ツイート文中に「制度があっても育休すらとれない現実」とあり、これは今エントリーで書いてきた「法はあるが、法が守られない」問題です。また「現実に向き合っている人たちを法改正で守る」とあります。これはおそらく、育休法違反に罰則規定を設けるなど「もっと強い法を作る」という話だと思います。それはそれで良いと思うのですが、育休法だけ強くなると、労基法さえ守らない社畜な多数派の人たちと、見上げるような天空にそびえる育休法が守られる少数派の人たちの落差がますます開いて、対立が深まりそうで不安です。

落差、対立を回避するために労基法を守る方策を二つ考えてみました。


二倍&二倍案(黒田日銀のマネではない)

 一つは、労基法を改正し、司法を活用します。
未払い残業代は、現状、労働基準法第115条で2年で時効になってしまいますが、これを民事の一般債権のように時効を10年に伸ばします。また、懲罰的に未払い残業代は倍額請求できるという法を作ります。やられたらやり返す、倍返しだっ、というのは何年前のネタでしたっけ?
例えば月々8万円の残業代未払いが、かれこれ5年続いていたとすると、未払い金が 8*12*5=480万円のところ、二倍の960万円請求できるとするわけです。もし10年なら1920万円になります。

仮に裁判になったとして、過去の勤務実績など証明できるのかが問題ですが、そこはテクノロジーを使います。例えばiPhone用に「残業証明アプリ」なるものがリリースされています。GPSデータを記録し、日々、何時から何時まで会社にいたか証明できる、というものです。テクノロジーって便利。

そうした法を作っても、現役社員は社内での立場を考えると請求は困難と思われますが、退職すれば請求できるでしょう。会社側は、三年後五年後にどの社員が退職して未払い残業代最大10年分の倍額請求訴訟を起こしてくるか予測できませんので、退職後に訴訟されない為には働いている時に残業代をきっちり払ってしまうのが合理的になります。結果的に、残業代未払いがなくなれば理想的です。
更に、企業は残業代を払いたくないので業務効率化を真剣に行えば、社員は定時で帰れるようになります。これが最善の結果です。
未取得有給休暇も10年分を倍額買い取り請求できるようにすれば、会社側は「有給は必ずすべて使い切れ」と言うようになるかもしれません。

 

二つ目は行政の機能を使います。
労働基準監督署を強化すれば良いと思うのですが、財政を考えると予算人員の増加は困難です。そこで、同じ厚労省にある職業安定所ハローワーク)を解体してしまう、というのはどうでしょう。職業紹介は民間企業で十分できますし、現に転就職する人の多くは民間企業の仲介を利用しています。

blogos.com
上の記事のように、ハローワークの職業紹介は国費をかけている割に質も良くありません。

www.nikkei.com

地方自治体もやる気なので、もう国は手を引きましょう。

他方、労働基準監督署の業務は労働分野の警察で、民間にはできません。役所には、民間にできない業務に集中してもらいたい。
しかし、単なる解体ではハローワーク側からの激しい抵抗が予想されます。そこで、ハローワークは明日から「第二労働基準監督署」に看板を付け変えて、職員もそのまま働いてもらいます。仕事が職業紹介から労基署業務に替わるだけで雇用は維持されます。これで、厚労省の総予算人員はそのままで、労基署を倍増できます。(雇用保険の業務は第二労基署の一角で続けてもらいましょう。)
で、労基署&第二労基署の二倍体制で労基法違反の摘発を競争してもらい、勝った方にボーナス支給、とかどうでしょう。両者に実力差があり過ぎるなら、人事異動で戦力均衡を図ります。AKB48から指原さんがHKT48に行ったみたいに。


勤勉と言う袋小路

日本の労働生産性OECD加盟34カ国中21位。主要先進7カ国では最下位という状況に対して日本生産性本部茂木友三郎会長(キッコーマン名誉会長)が「日本は勤勉な国で、生産性が高いはずと考えられるが、残念な結果だ」と発言したのに対し、あちこちから突っ込みが一斉に入っていました。
勤勉なのに生産性が低いのでなく、勤勉だから生産性が低いのだ。効率を考えず、ひたすら長時間労働で穴を埋めようとするから一向に生産性が上がらない、と。いまだにFAXとか使ってるし。
いやホント。いいかげん日本人は「労基法を守る」という方に一斉転換し、法を守っている人たちを迷惑扱いしないように変わらないと、出生率も、労働力の確保も、生産性も、袋小路に入って行き詰っていく気がします。

そんなことを考える、年の瀬です。みなさま、良いお年を。