水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

福岡ホークスと日本経済の需給ギャップとの関係

内閣府は21日、日本経済の需要と供給能力の差を示す2011年7〜9月期「GDP(国内総生産)ギャップ」(需給ギャップ)がマイナス3.5%だったと発表した。金額換算で年間15兆円程度の需要不足となる計算

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20111121-OYT1T00986.htm

相変わらず景気が悪くて、設備や労働力が遊休しているそうです。しかし、需要不足の原因は、実は供給が不足しているからかもしれない、と福岡ホークスが教えてくれます。

日本シリーズ中日ドラゴンズを破り8年ぶりに日本一の座を掴んだ福岡ソフトバンクホークスは、ホームゲーム観客動員数(以下観客数)パ・リーグ1位を制覇し続けている球団でもあります。今年はリーグ優勝効果もあって観客数は増加。全12球団中3位(阪神・巨人の次)につけています。この成功の原動力が、1989年ダイエーが南海から球団取得と同時に行った福岡移転にあるのはご存じのとおり。また、本年の観客数パ・リーグ2位(総合5位)は北海道日本ハムファイターズ。こちらも2004年に本拠地を北海道に移して以降、観客数を2005年の137万人から2011年は199万人へと大幅に増加させています。*1
いずれも、ホークス・ファイターズの試合という「供給」は昔からずっとあった。しかし、以前は供給過剰地域(大阪と東京)に埋もれていたため万年「需要不足」に苦しんできたが、移転によって九州・北海道に眠っていた潜在需要を開花させ「経済成長」に成功した形です。
日本経済も同じではないかと。
同じ、と言うと産業の地理的配置の問題なのかと誤解されそうですが、そうではなく、「的外れ」「時代遅れ」な供給能力は温存しても需要を生まない。それらはスクラップして、「正しい」供給に変化すれば需要は増大する。そういう意味で需給ギャップは需要の不足ではなく供給の不足、あるいは供給の変化の不足ではないかと思うのです。

ハウステンボスが9月9日に発表した、 平成22年10月〜平成23年9月通期決算の見込数値です。

入場者数 180万人 ( 前年同期比 117% 26万人増 )
宿泊者数  26万人 ( 前年同期比 104% 1万人増 )
売上高 130億円 ( 前年同期比 126% 27億円増 )
営業利益  9億円 ( 前年同期比 21億円増 )
経常利益 18億円 ( 前年同期比 32億円増 )

旅行会社H.I.Sの創業者で現会長の澤田秀雄氏が経営を引きついで、業績は一変しました。1992年の開業以来18年連続赤字だったのに、昨年春に経営を引き継いで今年もう黒字化が見込まれています(第3四半期まで黒字化済み)。
これも、ハウステンボスという供給は19年前からありましたが、ずっと需要が不足していたのは行かない客が悪かったのではなく、行きたくなるサービスの欠如が原因でした。悪いのは供給なのです。(澤田ハウステンボスの経営については、「PHP Biz Onlineのインタビュー」が面白かったです。)
一年だけで判断するのは早計でしょうが、今「ハウステンボス」でググると、「光の王国、19日開幕」とか「ハウステンボス子会社運行で上海〜長崎航路14年ぶり復活」とか「ハウステンボスを発着点に長崎初のフルマラソン開催」とか検索が多数引っ掛かり、バンバン攻めているのがわかります。上海〜長崎の国際フェリー運行では、公海上でカジノを営業する意向とも。スゴイ!!。こんなことは昨年以前は無かったでしょう。

2011年9月中間決算を見ると、ゲームソフト大手6社中4社が増益を確保。これは、コーエーテクモが「100万人の信長の野望」、コナミが「ドラゴンコレクション」といったソーシャルゲームで利益を稼いだためで、パッケージソフト売上の減少という時代の変化に適応した結果です。対照的に、任天堂は通期予想を200億円の赤字(前期は776億円の黒字)に下方修正しました。
K-POPや韓流ドラマに人気があるのは、日本のエンタメ産業がうまく対応できなかった需要の変化が輸入品によって代替されている結果であり、他方、AKB48初音ミクや日本製アダルトビデオには一定の競争力があってアジアなどのエンタメ需要を取り込んでいるとも言えます。(ちなみに日本製AVには、極めてガラパゴス「モザイク修正」という規制があるため、いずれ中韓のアダルト産業に駆逐されると言う意見もあり興味深いです。)

15兆円の需給ギャップは、時代の変化に取り残された無駄な供給能力が累積しているということであり、同時にホークス・ファイターズやハウステンボスの客のように鬱積している潜在需要もあるはずです。

家電大手のパナソニックは、液晶パネルの茂原工場(茂原市)を、官民ファンド産業革新機構と大手電機メーカー三社が出資する新会社「ジャパンディスプレイ」に譲渡することで基本合意したと発表した。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/chiba/20111117/CK2011111702000048.html

今回は買い手がついて良かったですねとしか言えませんが、正直、日本国内にテレビ工場を立地させる意味はもうないでしょう。自動車工場も、いずれ規模縮小は避けられないだろうと思います。

他方、眠っている需要は未知の市場であり何を創造すればいいのかは優秀な起業家にしか見えないものです、普通は。
しかし中には誰にでも見えている物もあります。介護や保育マーケットは明らかに市場規模に拡大の余地がありますが、公的規制で需要の「待機」が堆積しています。また、電子書籍や動画・音楽などのデジタルコンテンツの流通は、需要はもう爆発しそうなくらい待ち焦がれているのに出版社だか著作権団体だか何だかの既得権に遮られて、諸外国では既に出来ている市場が未発達なままです。これらをなんでも市場原理で自由放任にすればいいわけではありませんが、手を打っていかないと取りこぼしはあまりに勿体ない。
日本のGDPがみすみす失っている物は小さくありません。