水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

現金ペナルティ

11月1日から、イオンの多くの店舗でレジ袋が有料化されました。「レジ袋辞退で2円引き」から「レジ袋有料5円」へ。他のスーパーでも同様の取り組みを行っていますが、これは「導きたい方にインセンティブを置く」か「避けたい方にペナルティを置く」かの選択です。太陽か北風か。エコカーを減税すべきか、むしろエコじゃないカーを増税すべきなのか。タバコの価格を上げて禁煙治療に健康保険を適用するのはペナルティ+インセンティブの二刀流か、など身近な例も色々あります。

以下、本日のエントリーは多分に私の憶測と妄想が入っています

私の憶測ですが、スーパーがいつの日かペナルティを課したいのは「現金による支払い」ではないかと思います。
毎日毎日すべてのレジに釣り銭を準備するのも、売上現金を回収するのもコストです。また「お会計1374円になります」「あー、ちょっと待ってね。74円出すから」(ここで初めてカバンの中の小銭入れをゴソゴソ探し出す)「サイフ、サイフと。あ〜74円、74円、40、50…60、え〜と」(小銭入れをシャカシャカ振る)「あらら60円しかないわ〜。やっぱり2000円で」というロスタイムをなくせばレジの処理速度も上がり、客の行列待ち時間も減らせます。

今のところ、nanacowaonでお買い物すればポイント5倍、といった「電子マネーへのインセンティブ」で済ませていますが、できれば「本日より、現金でのお支払いの場合はお会計に20円上乗せされますが、よろしいですか?」とペナルティを課して取扱いに手間のかかる現金を追放したいのではないか。でも、そんなことを言えば消費者から強烈な批判を受けること必至で言い出せません。

誰かが先に言ってくれれば都合いいのに…。|ω・`)チラ…。

憶測に憶測を重ねますが、スーパー業界は今JR東日本に熱い視線を送っている気がします。

Suica運賃はどうなるの?

JR東日本は消費税引き上げに際しSuica等IC乗車券での運賃を1円単位化すると発表、10円単位の切符との間で二重運賃が発生します。その目的は「消費税を公平に転嫁するため」とJRは言っていますが、マジで?それだけ?

区間 現行運賃 Suica 新切符
東京-新宿 190円 195円 200円
東京-横浜 450円 463円 460円

(2013年6月17日・日経新聞記事に掲載された試算例から抜粋)

そうなると新運賃は、四捨五入の関係でSuicaの方が安いケースと切符の方が安いケース両方が発生し、3円4円の損を避けるために切符を買う人も出てくるでしょう。せっかくSuicaを普及させて切符を買う人を減らし、券売機で取り扱う硬貨の量を減らし、改札機の半分くらいをIC乗車券専用にして切符詰まりトラブルを減らしてコストを削減してきたのに、時代を逆行させてしまいます。本当に、そんなことをする気なのかと私は不思議でした。

そこへ援軍が現れます。国交省です。

10月29日、国交省は1円単位の運賃導入を認める方針を明らかにしましたが、各紙の報道を読むと、こんなことを言っています。
「国交省は(中略)切符よりIC乗車券の運賃が安い方が消費者感覚に合っているとして、IC乗車券の運賃は切符以下の運賃とすることを求めた。(10月30日・日刊工業新聞の記事)」
「国交省は(中略)現在、増税後の運賃は四捨五入で算出されているが、電車では来春以降、切り上げも認める。同省の試算では、現在150円の運賃の場合、ICカードで電車に乗れば、増税分を含めて154円になるが、券売機などで切符を買った場合、10円単位で転嫁され、切り上げも認められるため160円となる。(10月30日・毎日新聞の記事) 」
「IC乗車券の方が高い運賃は設定するな。切符の場合は切り上げても構わんゾ」 これは現金ペナルティの容認、あるいは後押しといえます。何故、国交省がペナルティにイケイケなのかはわかりませんが。

しかし、JR東日本・冨田哲郎社長の発言は消極的です。信濃毎日新聞の記事では「国交省は「IC乗車券運賃は現金運賃と同額ないし安くなることを基本とする」との方針を出したが、冨田社長は会見で「検討している」とするにとどめた。(11月7日の記事)」となっており、時事通信の記事に至っては「端数は四捨五入する方針。冨田社長は「(1円単位での転嫁に比べ)高くなる場合と安くなる場合がある」と述べ、理解を求めた。(11月6日の記事)」と現金ペナルティは採用しない結論になっています。(というか、同じ11月6日社長会見の記事なのに、こんな大事な部分がなぜ新聞社によって違うのか? 間違っているのはどちらだ?)

最近流行してる食品偽装でもわかるように、先頭を切った者はとりわけ強く集中砲火を浴びると知れていますから、冨田社長も慎重にならざるを得ないのでしょう。しかし、時代はいずれ現金レス化していくのではないでしょうか。JR東日本にはリニア新幹線を建設する勇気で、「現金を扱うことはコストなのです」と消費者に説明してこっちの話も前に進めましょうよ。と思ったら、リニアはJR東海でしたか。


現金、とりわけ金属貨幣は不便なシロモノです。もちろん、袋に入れた米や、竹籠に閉じこめた鶏を市場に持ち寄って物々交換するよりは多少は進化していますが、大した価額でもないくせに重くて体積がある。記憶容量が小さいくせに図体が大きいカセットテープと同じで、やがて消えゆく運命でしょう。

妄想ついでに、電子マネーデファクト化し現金がなくなりつつある世界を想像して大きな影響を受けそうなものを三つあげます。

子供

一つ目は子供です。子供はどうやってお小遣いをもらうのでしょう? 「ママー、僕に500円チャージしてよ」「駄目です。無駄遣いばっかりするから100円しかチャージしません」とか? 新世代の子供はものごころついたときから硬貨を見るのは年に一回。初詣で神社に賽銭を投げ入れる時だけですから、薄く丸い金属板を、絵馬や数珠のような何か宗教の用具だと思い、それで物が買えるとは思わないかもしれません。今の子供にカセットテープを見せても何かわからないように。
小学校の算数の教科書も書き換えが必要です。「太郎君は買い物に行き、リンゴとミカンをうんたらかんたらで、お釣りは何円でしょう」という設問が出来なくなります。「お釣り」という概念がありません。1374円の買い物で2024円払って釣り銭をキリ良くするとかも子供には分かってもらえません。
「計算能力が落ちるから、小中学生には電子マネーを与えず、現金を使わせろ」という大人一派も現れるでしょう。でも、そのころ子供たちは、どこで何を買うとポイントが一番有利になるか計算しているのですけどね。

セブン銀行

二つ目はセブン銀行。現金を引き出さなくなると、ATM手数料ビジネスモデルは崩れてしまいます*1。セブンはどうするのでしょう。
今のところセブン銀行では、自分の口座残高をnanacoに移動させることができません。一旦ATMで何たら銀行の口座から現金を引き出し(セブンはそこで手数料収入を獲得し)、たった今引き出した現金をもう一度ATMに吸わせてnanacoにチャージします(ここは無料)。これを改良して、途中で現金を扱う必要をなくして銀行口座残高を移動チャージできるようにし、その口座がセブン銀行以外だったら移動チャージの手数料を取ればいいのか。いま現金引出しで手数料を取っている代わりに。
逆に言えば、各銀行はセブンのATMに依存せず独自にチャージする方法を見つければセブン銀行に手数料を払わずに済むが、その方法はあるのか?
Suicaも同様ですが、クレジット決済を嫌がる人のチャージ方法を解決すれば、現金レス化は紙幣も含めて更に多くの人に進展します。

お金自身

最後は、現金自体への社会的評価です。あるラインを越えて現金を扱わなくなると、現金が嫌われそうな気がします。「どこの誰がさわったかも知れない汚いモノ」とみなされてタバコのように迫害されそう。食品を扱う店員が現金を触るのはマナー違反などと言われるかもしれません。オシャレなカフェあたりが清潔さをアピールするために禁煙ならぬ「禁貨」電子マネー決済オンリーとか言い出すかも。
それは日銀法で定められた紙幣の強制通用力に違反するのか? 硬貨も20枚までは強制通用力がある*2ので、受け取り拒否はやはり違法なのか。そうなると20世紀に普及していた「テレカ専用公衆電話」が10円100円を拒絶していたのも法律違反だったのか?

妄想は尽きませんが、このへんで。 


おまけ・過去エントリー

2012-05-13「情報の体積」
本もVHSも、かつては情報を所有するのに体積が伴ったので部屋を狭くしていたが、そこから解放されて部屋が広くなる。現在、一般家庭でもっとも場所を喰っている「情報」は…、という話。お金の話も少し出ます。

*1:2013年3月期決算では、年間の連結経常収益(売上高)949億円のうち、896億円(94%)がATM手数料です

*2:通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律