水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

機械が足りない気がする

話題の本「機械との競争」…は未読で、東洋経済onlineの著者インタビューだけ読みました。NHKスペシャル「ロボット革命」は何とか再放送を見ました。
で、確かにコンピュータや機械の進化が人の仕事を奪うのかもしれませんが、半面、技術の進歩が余りに遅すぎないか?とも思っています。アーサー・C・クラークによれば、2001年に人類は木星軌道に到達しているはずだったのですから。

グラフは医療・介護費用の推移です*1。平成23年度で計46兆円、年1.5兆円程度ずつ増加しています。「高齢化の為」に巨額の費用を要すると言うのは需要面だけ見た話で、供給面から考えると「医療や介護がいつまでも人海戦術に依存している為」と言えます。医師・看護師・介護士といった人間が仕事を背負っており、トヨタの工場のような自動化が進んでいないことも高コストの要因です。

看護師さんを救う機械

8割が「辞めたい」、疲弊する看護師の労働現場 その理由は「人手不足で仕事がきつい」37%など 3交代制では日中の勤務を終えた後、数時間の休憩しか取らずに次の深夜勤務に入るスタイルも常態化している (2013年3月5日・EconomicNews・文章を改変し短くしてます)

http://economic.jp/?p=10531

過酷な労働環境を改善しないと医療現場は崩壊してしまいます。自動化を進めコストを削減して定型作業から看護師さんを解放するべきです。例えば入院患者に薬を配る仕事。

薬を自動ピッキングする機械は存在しますし(写真左)*2、薬を薬剤部からナースステーションまで自律搬送するロボットもあります(写真右)*3。これって、もうひと踏ん張りして、ロボットが病室を巡回し各患者さんに薬を直接届けられませんかね。重症患者は別として、自分で薬飲める人には手首に巻いた患者識別バーコードをロボットが読み取り確認したうえで、その人分の薬を渡す。それでいいでしょ、人間が配らなくても。

例えば、採血や注射・点滴を打つ仕事。

自動血圧計ってありますよね。上の写真みたいなの。これの腕を通す筒部分にカメラと赤外線センサーを付けて血管の位置を画像認識してアルコール塗布して針を刺す、って技術的にムリですか? 素人的には出来ない気がしないのですが。血管の直径を0.1mm単位で測定し、針を刺した深さも0.1mm単位でコントロールすれば、ヘタな看護師さん(失礼)のように針先が血管突き抜けて内出血で青タン作ることもないでしょう。
大きな病院だと外来患者の採血専門部署がありますが、あんな定型作業の繰り返しを人間がする必要ありますか? 入院病棟でも、さっきの搬送ロボットから注射薬剤を受け取り、注射ロボットが患者さんに注射・点滴して回る。逆に注射ロボが採血して搬送ロボに渡して、検査室に運ぶ。

看護師さんには急変した患者さんの処置のように高度な知識・技能に加え迅速さも要求される仕事をしてもらう。あるいは、病気への不安や痛みで苦しんでいる患者さんに寄り添い、励まし慰める、といった「人の優しさ」が求められる仕事をしていただく。それはロボットにはできないでしょう。
そうした職務に時間をかけるために、できる作業はロボットにごっそり任せるべきで、自動化・機械化が実に不足しています。

介護士さんを救う機械

特別養護老人ホームなどの社会福祉施設で働く人が腰痛に悩んでいる。厚生労働省によると、4日以上の休業が必要な腰痛は10年間で2.7倍に増加。高齢化で利用希望者が増えたことに加え、要介護度が高い高齢者が多くなっているため (2013年2月26日・日経新聞)

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0805K_W3A220C1CC0000/

ベッドからお年寄りを抱き起して車椅子に移すとか、寝たきりの方に褥瘡(床ずれ)ができないよう、夜間数時間おきに体位変換する(寝る姿勢を変える)とか、介護職には腰に負担のかかる仕事がたくさんあります(看護師さんも同様です)。
こういう仕事、いつになればホンダのasimoがやってくれるのでしょう。Nスペでは、asimo福島原発事故に投入できなかった理由が「オフィスのように平らな床を前提にしたロボットだから」と説明されていましたが、病院も老人介護施設もバリアフリーで超平らな床ですよ。welcome!アシモ
介護ロボットが出来たら介護士が失業する、という意見もあるでしょうが。私はそう思いません。1810年代にラッダイト運動と言うのがありました。産業革命で自動織機が開発され、職を失う織物職人さんが機械を破壊して回った出来事です。でも、自動織機の登場で繊維産業の雇用は増えました。衣料品の価格が下がり需要が大幅に増えたためです。靴下100足縫うのに何人雇用されるか、だけ見れば雇用は減りますが、靴下の需要が500足に増えれば雇用は増える。ただ職種は「職人」から「工場で織機を操作するオペレーター」に変わりましたが。
介護も同様で、ロボットの実用化でコストが下がれば、同じ要介護認定で利用できるサービスの回数や時間を増やすことが可能になり介護市場が拡大します。介護士がロボットを駆使する業務効率化で雇用は維持できると思います。(別途、ロボットの開発製造やメンテと言う新規雇用も発生します。)
介護士に求められるのは足腰の強さより、例えば訪問先の家の状況を把握して自分がする仕事とロボットにさせる仕事を仕分け、ロボットを上手く操作する能力に変わるでしょう。あるいは、次第に体の自由が利かなくなる不安におびえるお年寄りを慰め励まし、孤独から救う「人の優しさ」が看護師同様に、より重要な職務になるでしょう。

医師は…どうなる?

「機械との競争」の共著者マカフィー氏はインタビューで「ウエートレスの仕事は、ロボットでは無理だ」と述べています。低スキル労働と言う文脈なのですが、体を使う仕事とも言い換えられます。それに対し「税計算ソフトのおかげで、複雑な所得税の申告もネットでできるようになり(中略)税理士の需要は8万人も減った」とも述べています。雇用が喪失するのは「情報処理的労働」だと。
ならば看護師・介護士よりも先に医師の仕事が自動化されると言えます。その兆しはすでにあります。

政府は医師がパソコンなどに取り込んで診断に使うソフトの販売を解禁し、1兆円市場へ参入促す。診断ソフトは心電図やCTスキャン、3D映像を使った病状解析などのソフトをダウンロードして医師が使う。技術革新で診断時間の短縮や精度の向上が見込める。 (2013年2月16日・日経新聞・文章を改変し短くしてます)

http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC0801K_V10C13A2EE8000/

これって、ソフトのユーザーインターフェースが向上し、Siriを使うように患者との対話形式で自動問診し、血液検査やCT画像など検査結果と突き合わせてソフトが病名判定できるなら医師はいらないですよね。外来患者はまず自動診断システムに任せ、診断困難な患者や重篤な患者だけ人間の医師に回せばいい。
上で紹介した記事の最後に「これまでは医師による医療行為の裁量が狭まると警戒する日本医師会の一部や族議員の抵抗で認可が遅れていた。欧米で成功事例が増え、有効性を否定できなくなった」との文章があります。いかにも日本医師会。「我々『お医者様』の聖域を機械の分際で侵すな」といったところでしょうか。

既にある自動化

ここまでは、何らかの開発やイノベーションが必要な話でした。でも、既に自動化されている医療もあります。
冬の間、内科・小児科はインフルエンザ(と疑われる)患者で溢れかえります。インフルエンザの診断には10年ほど前から「迅速診断キット」が使われています。陽性ならインフルエンザです。なら迅速診断キットをドラッグストアで売ればいいのでは? 昔は鼻の穴の奥まで綿棒を突っ込んで検体を取る必要があったようですが、今は精度が向上「鼻汁鼻かみ液」でOK、3〜8分で結果出るそうです。陽性だったらリレンザタミフルを5日分くらい健康保険適用で買えるようにすればいい。
迅速診断キットを使う権利を医師が独占しているから、熱でシンドイ身体を引きずって病院まで行き、待合室で一時間くらいウイルスや病原菌が濃厚に漂う空気を吸わねばならず、「検体抽出液に鼻汁を混ぜてテストプレートに三滴滴下して8分待つ」という作業に医療費を払っています。金と時間と体力の無駄無駄無駄ー。
おまけに日本では、インフルエンザで休むのに「感染証明書を出せ」といったり、逆に復帰するのに「治った証明書出せ」とかいう組織があります。これが医師のツマラン仕事をどんどん増やしています。今後は、陽性反応の出ているキットを写メに撮って課長宛てに送信して「感染したので今週休みます」と連絡し、陰性反応になったキットを写メに撮って「治ったので明日から登園させます」と保育園に送信すればいい。

それでも医師は失業しないでしょ、多分

埼玉県久喜市で119番通報した高齢男性(75)が1月、県内外の25病院から計36回、救急受け入れを断られ、約3時間後に到着した県外の病院で死亡したことが分かった。 (2013年3月5日・毎日新聞)

http://mainichi.jp/select/news/20130305dde041040025000c.html

ともかく、日本は医師が不足して大変なので、診断ソフトや迅速診断キットで判断できるような病気は医師の手から放して、人間のお医者様には、もっと重篤な患者さんの対応に専念していただきたい。

なんか最後はイノベーションではなく規制緩和の話になりましたが、「機械との競争」だって? でも機械の進化がスピードアップしなければ「財政破綻との競争」になるでしょう。



過去の関連するエントリー→「ペニスの皮は誰が切るべきか?」 医療の一部を、医師以外の準医師的な資格者に開放しても良いのでは、と言う意見です。

*1:医療費のデータはコチラ(pdf注意)、介護費用のデータはコチラから取りました

*2:写真左は湯山製作所と言う会社のHPから取ってきました。スクロールすると色んな調剤ロボットが紹介されています

*3:写真右はPanasonic製で、ココから取ってきました。でも報道によると、Panasonicは医療機器事業を売却しそうですね