水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

国債危機の「はやさ」と「ハヤサ」

ギリシャ財政破綻懸念からソブリン(公的債務不履行)リスクが生じ、外資が一斉にギリシャ国債から逃げ出した時、「日本の国債は日本人が買っているから大丈夫」という意見がありました。アレはどういう意味でしょう。
実際、公的債務の海外保有比率が77%と高率なギリシャは、債務のGDP比がたかだか110%程度で耐え切れずに崩壊しました。他方、海外保有比率が5%程度しかない日本は債務残高がGDP比180%になっても平然としているのですから、日本の方が国債からの資本逃避が遅いのは確かであり、海外投資家の方が逃げ出すのが「早い」ということです。
では、日本人は逃げださないのでしょうか?。日本人が愛国心から国債を買い支え、国が死ぬ時は自分も死ぬと覚悟しているならば、そうでしょう。でも、日本人が国債を買っているのは、「損をするのはスゴク嫌」志向が強く、ローリターンでもいいから元本保証された金融商品が好きだと言う性質が原因です。
一旦、国債がまともに償還できないかもしれない。あるいは、円貨が暴落してインフレが生じ、たとえ償還されても国債保有は損をするかもしれないと言う不安に火が点いた場合、国債から逃げ出す「速さ」は外国人と差がないでしょう。それどころか、損をするのがとりわけ嫌いな民族ですから、点火後のフライトスピードは外国人よりマッハかもしれません。
GDP比180%になっても日本人が国債を買い続けているのは、今はまだ不安を感じていない=日頃あれほど批判している日本政府を日本人がいまだに信用しているという事です。同時に、95%を日本人が買っているというのは、外国人から見れば日本国債は積極的に買うほどの魅力も信用もないという意味です。日本人が買っている国債は、日本人しか買い手がいない国債でもあります。正しいのが「既に逃げている」外国人か、チキンレースに一人で挑み続けている日本人かはわかりません。

国債坑道のカナリア

もう一つ、国債のリスクは長期金利を監視することで対応できると言う意見もあります。長期金利が、坑内の毒ガス濃度をいち早く教えてくれるカナリアだということです。コレはどうでしょう。ギリシャでの経験を見てみましょう。

ギリシャ10年物国債金利チャート3年分(BLOOMBERG)
ギリシャでは2009年10月21日に前政権による財政赤字の隠ぺいが発表されて(赤い矢印の付近)以降、金利はどんどん上昇し、2010年4-5月にはパニックが生じています。カナリアが最初に羽根をバタバタさせて苦しみ始めてから、坑内の人が倒れるまでの猶予は半年という事です。
半年。六か月で日本政府に何ができるでしょう。先にも書いたように損をするのが何より嫌な日本人ですから、国債の信用に疑念が生じてからの逃避の速度がギリシャ危機より「ゆっくり」になるとは思えません。六か月で900兆円の債務が返せるはずはありませんが、最低限プライマリーバランスを均衡させなければ破綻は回避できません。プライマリーバランスを確保するには、消費税率を一気に25%程度に引き上げて、同時に年金や公務員給与を大幅に削減すると言った政策の断行が必要です。国民の痛みと抵抗が必至の政策を、たった180日で実行できるでしょうか?。それよりも、悪いのは歴代の自民党政権だとか、現在の民主党政権こそ破綻の原因だとか官僚が悪いとか、保身と責任の押し付け合いをしているうちに時間切れになる悲惨な姿が目に浮かびます。
炭鉱の出口(財政再建)は遥かに遠く、カナリアが悲鳴を上げてから(金利の上昇が始まってから)逃げ出す手段を考え始めても、とても間に合わない気がします。