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水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

国に、1000兆円貸してみる

国債の議論をするとき、そもそも借金をしているのは「国」であって、「国民」は金を貸している側だ、という主張を見掛けます。では、国民が自分の国に金を貸すとはどういうことなのか考えてみました。

N氏の国

世界の東の果てにある島々からなる「我が国」。国民は三人しかいません。N氏とその父、そしてN氏の息子です。三人はとても真面目。毎日額に汗して働き、暮らしは質素。当然、たくわえはしっかりあります。こつこつ貯めたお金でずっと国債を買ってきました。父曰く「この世で最も信頼できる金融資産だ」からです。貯めも貯めたり、その額1000兆円。ビル・ゲイツも土下座する金持ちです。そんなN氏のある一日。

N氏、目を覚ます

今日は久々の休日です。
「いい天気だ。う、う〜ん」
布団の中で伸びをした途端、腕がぶつかり、バサバサバサと積み上げた紙が土砂崩れしてきました。
「おおっと、危ない危ない」
N氏の家の中は、どこもかしこも国債証書だらけ*1。何せ1000兆円分もありますから大層な枚数になります。布団も、こうして国債の山と山の隙間に敷いているのです。起き上がったN氏は、崩れた国債を積み上げていきます。その時、ある一枚が目に留まりました。
「おや、これは丁度良いものを見つけたぞ」
山の中から、今日が満期償還日の証書が偶然出てきたのです。金額は20万円。
N氏の父は今、家にいません。先日体調を崩して入院しているのです。治療費は健康保険で安く済みますが、差額ベッド代やら何やらあり、やはりお金はある程度入り用です。休みを使って支払いを済ませようと思っていたところでした。
N氏のポケットには先日受け取った給料20万円が入っていますが、これでそちらは生活費に充てられます。父は常々「貯金は大切にしろ」と言っていますが、働き手も一人減りましたし、他ならぬお金を貯めてきた父の治療費に使うなら構わないでしょう。
二階から大きなイビキが聞こえてきます。息子が寝ているようです。街の居酒屋で働いているのですが、ひどく低賃金で労働時間も長く、とても疲れているようです。今夜も仕事があるらしいので、N氏は息子をそのまま寝かせておくことにしました。

N氏、役所へ行く

N氏は家を出て、町の中央にある役所に向かいました。国債を換金するのは初めてなので、少し緊張します。
「イラッシャイマセ。コクミンのN氏サマ」
役人といえどロボットは礼儀正しいのです。
「これを換金してくれるかい」
国債を差し出すと、ロボットが白目を剥いて驚いています。
「コ、コレヲ、換金ナサルノデスカ? マジですか?」 
額に汗をかいています。ロボットのくせに。
「何か問題があるのかね? 買った国債の償還金を受け取るのは国民の権利だろう。20万円、早急に用意してくれたまえ」
「ショウショウおまちクダサイ」
あたふたと走り去るロボットをN氏は見送りました。

−5分後−

「N氏サマ。オマタセ、イタシマシタ」
ロボットが捧げ持つトレイを見てN氏は不審に思いました。乗っているのは紙切れが一枚。
「なんだこれは! ふざけているのか!」 取り上げた紙に書かれていたのは

【 徴税通知書 国民N氏は金20万円を税金として支払うこと 我が国政府 】

「フザケテオリマセン。コレハ、イマシガタ国会デ、キマリマシタ。納税は国民の義務ですよ、N氏サマ」
「こ、国会って、いったいどこにあるんだ」
「ハテナ?」
「おまえ、今、会話の一部分だけ流暢にしゃべっただろ」
「・・・」

N氏は仕方なく、ポケットの20万円を取り出しトレイに置きました。ロボットがクルリと回れ右をし、もう一度回れ右をします。
「コクサイノ、ショーカン金、ゴヨウイデキマシタ。ゴカクニン、クダサイN氏サマ」
ロボットが満面の笑みでトレイをN氏にグイと差し出してきます。グイ。
「・・・え?」

N氏、布団を敷く

N氏は帰宅すると、早々に布団を敷いて横になりました。明日は朝から仕事です。満員電車に揺られる日です。豆電球が燈る薄暗い天井を見上げながら、考えました。今日の出来事を振り返ります。
「おかしくない。何もおかしくなんかない。俺は、20万円分の国債証書を国に返し、それと引き替えに20万円受け取ったのだから、問題はない」

役所に寄った後、病院に行ったN氏は入院費を支払い父を見舞いました。元気そうです。ロボット医師の話では経過は順調で、まもなく退院できる見通しと。気がかりなのは退院した後の事です。日常生活は一人で送れますが少し麻痺が残るので、家の中はなるべくバリアフリーにした方が安全、と説明されたのです。
バリアフリー・・・。工事にどれくらい掛かるのだろう。50万くらい? 100万くらい?)今度ネットで調べてみようとN氏は考えます。
お金の心配はありません。たくわえは十分あります。あと・・・ほぼ1000兆円。布団を敷くとき、うっかりお尻が当たって土砂崩れを起こした中から、N氏は来週償還日が来る200万円の国債証書を見つけていました。次の休みに役所に行って換金すれば、とりあえず工事費は用意できそうです。
N氏は、布団の中でそーっと寝返りを打ちました。山を崩さないように、静かに。


「私たちは、本当に金持ちなのだろうか?」


N氏は紐を引っ張って豆電球を消しました。二階は静か。息子は仕事に行ったようです。
おやすみなさい、良い夢を。

*1:実際は電子化されてますが、そこはご愛敬で