日雇い派遣にデイリー生活保護をセットにできませんか?
規制改革会議、派遣制度巡り意見 日雇い規制など見直しを (日経新聞 2013/10/4 17:20)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL040TH_U3A001C1000000/
日雇い派遣を許可・再開しようとの動きがあり、これは経済学的には正しいコトです。
「業務に繁閑があり、ずっと雇用するのは無理だけど日雇いなら雇いたい」企業があり、「日雇いでもいいから働きたい」人がいる。これを認めれば生産(GDP)も増え、雇用・賃金も増える。禁止すれば、その分経済は縮み、労働者も損をします。
他方、反対する人は「不安定さ」を批判します。日雇い労働で生計を立てている人は、日額手取り6000円の仕事にありつけるとして、月に20日仕事があれば月収12万円でざっくり生活保護レベルの生活を自力で営めます。でも、不況で5日しか仕事がなければ3万。これでは生きていけません。
命とGDPの違いが問題になります。命は継続しなきゃならない。仕事がない日は死んでおいて仕事にありつけた日だけ生き返る、という訳にはいかない。細切れの仕事の寄せ集めでも立派なGDPになりますが、命は細切れを寄せ集めはできません。
両者のズレをセーフティネットで補えないかと考えます。
デイリー生活保護
例えば、日雇い労働で生活している人は役所に個人IDを登録します*1。で、企業は労働者を日雇いしたら、日々、雇った人の個人IDをネット上のしかるべきサイトに入力します。X氏の個人IDが「12345」だとして、X氏が働けた日はどこかの会社が(それは日によって違う派遣会社かもしれませんが)「12345」と入力します。仕事にありつけなかった日は、どこの会社からも「12345」は入力されません。
行政側は、データを集約すればその日誰が仕事にあぶれたか把握できます。デイリーに。で、無収入の人には4000円の生活保護を支給します。雇用された人リストに「12345」があった日は支給しません。日々の収入の有無を迅速に生活保護支給に反映できます。
別に、お役所の人間が、毎日毎日膨大なリストを、X氏のIDがあるかないか目を皿にして確認したり、4000円の支給を一件一件、手で入力操作する必要はありません。そのくらいのことは、自動処理できるでしょう。昔なら役所が高価なコンピュータを揃えなければできなかったことも、今ならどこかのクラウドが安く処理してくれそうだし。
その場合の、X氏の月収をグラフにしました。横軸が仕事にありつけた日数。縦軸は緑色線が働いて得た収入。その上に生活保護受給額を乗せて、赤色線が合計収入です。
今月まったく仕事にありつけなければ、収入はデイリー生活保護のみ日額4000円*30日で12万円。10日仕事があれば、働いて得た賃金日額6000円*10日=6万と働けなかった日のデイリー生活保護4000円*20日=8万で、計14万円。20日仕事すれば6000円*20日+4000円*10日で計16万円。25日働けば計17万円になります*2。日雇い労働の不安定さは相当改善できます。
「ウチでずっと働かない?」ってことでX氏がどこかに雇用(日雇いじゃない継続的雇用)されたとします。その時は雇った会社がID「12345」を新規雇用者として所定のサイトに入力する。と、役所のコンピュータが照合して、自動的にデイリー生活保護リストから外され、支給が止まる。あ、念のためメールを一通自動配信するといいですね。「A社からあなたを雇用したと入力があったので、デイリー生活保護から外すけど間違いない?。ID誤入力なら市役所に連絡して」みたいな内容で。
逆に、30日を超えて就労実績がなければX氏は病気か何かで働けなくなっているかもしれません。X氏宛にメールを自動配信します。「困っているなら市役所に連絡できませんか。デイリーでない本来の生活保護に切り変えれば、追加的に受けられる扶助制度が色々ありますよ」とか。役所側にもアラートを表示して「X氏就労実績長期なし。生活状況確認が必要」と促します。
最初に「日雇いで生活してます」登録する時は、少し手間がかかりそう。ミーンズテスト(収入・資産がないか確認)も必要だし。
でもこれも、多様なデータが連携して活用できれば便利。個人IDから雇用保険データが検索できればX氏が「既に会社で働いていて、日雇いは小遣い稼ぎ」じゃないか確認し、金融機関に依頼して「口座に親からの遺産1億円」がないか確認し、戸籍と税務データから「配偶者がいる。その人の年収1000万円」じゃないか確認する。
セーフティネットにITの進化を
何がしたいのかと言えば、社会保障制度もどんどんITやら何やらを活用して進化して欲しい、ということです。
雇用について「自由化論」の弱点だと私が思うのは、でもそれで生活に困窮する人が出ると、不況の時に「年越し派遣村」みたいな事態から社会不安が強まり「やっぱり規制を強化して正社員onlyにすべきだ」みたいな論が支持される。押し切ろうとしても反動で押し戻されて、結局みなさんが掲げる自由化が進まないんじゃないの?、と言う点。他方「規制論」の弱点は、でも正社員正社員って言ってると雇用が減って、結局損するのは貧しい人ジャン、と言う点。
対立する両者をつなぐのが「社会保障を進化させられたら、双方にとって事態は良くなるのでは?」ってことです。
生活保護にせよなんにせよ、技術的制約から反応速度が遅く、不便で、できることに限りがあった。でも、それって制度が成立した時代の制約をそのまま放置しているからで、ここ数十年の技術進歩を活用すれば、もっと便利にできるはず。
派遣会社からのメール一通で人が雇われ、次の日は仕事からあぶれる時代ですから、社会保障も負けずに、個人ID一つで迅速小回りの利くシステムで対抗して欲しい、と思うのです。
日雇いという、しばしば低賃金で生活できるかできないか綱渡りを強いられてきた雇用も、進化したセーフティネットを開発してセットで付ければ不安定さは改善され、社会が多様な雇用のメリットを享受できる技術が、今ならもうあるはず。私の案がいいかどうかはわからないけど。