水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

入社式と言う名の幸福

去る3月19日(金)、セブン&アイ・ホールディングスグループ合同の入社式が都内のホテルで開かれました。テレビのニュース番組を見ると、春休みも潰されて早々に研修に入る新入社員さんたちの幸福そうな笑顔が映っていました。
それはそうでしょう。この不況のさなか、希少な正社員の椅子を勝ち取ったのですから、「前倒しで働かされる」のでなく「働ける場所がある」のは勝ち組の証です。

日本の労働市場は硬直的すぎる。もっと流動性を上げるべきだと言う意見があります。でも、晴れやかな笑顔を振りまいていたのは、そうした雑音に惑わされることなく真っ直ぐに昔ながらの正社員の座を勝ち取った人達です。
その理由は、セブン&アイHDのホームページを見れば分かります。セブン−イレブン・ジャパンの採用情報を見ると、そこにあるのは「新卒採用」か「オーナー希望者の為のキャリア採用」と「障がい者採用」の三種。イトーヨーカドーの採用情報にあるのは「新卒採用」か「薬剤師に限り中途採用・パート採用」の二種。普通の総合職については通年採用も中途採用もありません。
つまり、オーナー希望でも薬剤師でも障がい者でもない人(就職希望者の大半はそうでしょう)がこの会社で働こうとした場合、道は二つしかありません。「新卒で春の一括採用で正社員になる」か、さもなくば「各店舗の張り紙を見て時給850円のパートに応募する」か、です。これで若い人たちに「君ももっと流動的な労働を目指しなよ。そちらの方が正しいよ。」と諭すのは随分残酷な気がします。新卒で正社員になれなければ、一生パートでワープア人生を送るしかない現実を見せられれば、誰だって必死に正社員になろうとするでしょう。

企業側がもう少しマシな選択肢を提供してくれれば、働く側も正社員椅子取りゲームに必死にならず、結果的に流動性が上がると思うのですが、どうもそうしたインセンティブを提供する気はないように見えます。
その背景に、雇う側にとっては正規と非正規の処遇に極端な差がある方が都合が良い側面があるように思えます。
(1)より多くの人が正規雇用募集に殺到するので、優秀な人を選びやすい。
(2)正規雇用の座を失う損失が極大化されるので、残業代が払われなかろうが、過労死寸前の過重労働だろうが、家族を残しての遠隔地への異動だろうが、何だって我慢してくれるようになる。
(3)正社員の比率を減らして非正規雇用の比率を高めれば、どんどん労務費を削減できる。(同一労働同一賃金的な制度になると、正規雇用を非正規に置き換えても労務費が下がらなくなってしまいます。)
先に引用した新聞記事によれば、今年の採用数は「社員の定着率が上がったことなどから前年より530人減らした。」そうです。これも、非正規の処遇が悲惨であればある程定着率は上がるでしょう。

春。年に一度行われる大規模な「入社式」という言葉は、日本の労働市場をよくあらわしていると思います。(正規・非正規など何らかの形で)「就職」するのではなく、(正社員として)「入社」するのが「式」という晴れやか名称の行事に笑顔で臨める道なのです。