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水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

新聞協会の向こうにあるもの

私たちは新聞と新聞協会に感謝すべきかもしれません。

軽減税率 導入見据え年内決着急げ
消費税率は、来年4月から8%に引き上げられるが、一方で食料品や新聞などへの負担を軽くする軽減税率の議論が進んでいないのは問題だ。30日に開かれた自公両党の軽減税率に関する調査委員会で、(中略)日本新聞協会は「消費税率10%の際には、新聞に軽減税率を適用してほしい」と要望した。  (2013年10月31日 産経新聞『主張』の一部抜粋)

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/131031/fnc13103103250000-n1.htm

軽減税率のタテマエは逆進性対策=低所得者保護だと思うのですが、そこに「活字文化の維持や民主主義の健全な発展に欠かせない新聞*1」という自分勝手な論理を持ち込み、軽減税率適用を公然と主張する新聞協会。2chのまとめ記事あたりでは大批判を浴びています。

しかしこの新聞協会の傲慢な行動は、いわば海面の上にポッコリ顔を出した氷山の一角。その一角が見えるおかげで、私たちは海面下に隠れた巨大な氷塊の存在を伺い知ることができます。
現実には、軽減税率は弱者を救う手段ではなく、いかに自分たちの製品を税制上有利にするかを巡り、政治への影響力を競う舞台です。新聞協会はおバカなので、水面上の見える場所で騒いでいますが、他の賢明な業界団体は、もっと静かに政治家に接近しているでしょう。水面下の、国民から見えにくい場所で。

先に引用した記事の見出しに「年内決着急げ」との文言があります。消費税率10%化は2015年10月予定。二年近く先で国民には「遠い話」に見えますが、軽減税率導入に積極的な公明党「軽減税率対象品 年内に決定を」と述べており、各業界団体にとっては今こそ決戦の時になっているのです。その公明党のウェブサイトを見ると

斉藤税調会長は、これまでの団体ヒアリングで軽減税率導入の「課題が明らかになってきた。乗り越えることができない壁ではない」とし、導入に向けた議論を急ぐ意向を示した

https://www.komei.or.jp/news/detail/20131031_12551

と書かれていますが、皆さんは、これまでにどんな団体がヒアリングされてきたのか知っていますか? 私は知りません。自民党公明党のwebsiteを見ても、参加団体一覧や各主張内容のような詳細な資料は見つけられませんでした*2
国民が知らないうちに密かに調整され、フタを開けたときに「え、あの商品が軽減税率なんだ。あれって生活必需品なの?」という事態が、あと数か月で発生しかねない状況に私たちは置かれている、ということを新聞が教えてくれています。

キャビアと子供服と売春宿

欧州の事例を見ても、軽減税率は歪みの宝庫です。

フランスでは、世界の三大珍味のうち、フォアグラとトリュフは5.5%の軽減税率、キャビアは19.6%の標準税率です。キャビアだけが輸入品。つまり輸入業者は敗北し、より政治家と親密だった畜産農家は勝利しました。

イギリスでは子供用衣類・靴等は税率0%です。「子育て費用を軽減し親を支援しよう」などと言えば日本でも支持されそうなもっともらしい話ですが、子供用であればイオンだけでなく「ベビー・ディオール*3」や「ジュニア・ゴルティエ*4」の服も「プラダ」の子供靴*5も0%になる訳で、結局、子供に高価な服を買い与えるリッチな親ほど節税できます。

ドイツ連邦財務裁判所は先月「売春婦が利用する宿泊施設は観光ではなく『商業目的』で使用されており、ホテルの利用料に適用する付加価値税の軽減税率は認めない」との判断を下しました。ドイツでは「観光業の競争力強化を目的に、2010年にホテル利用料も軽減税率の適用対象にした」そうです。
財政を健全化するために2007年に標準税率を16%から19%に上げながら、一方で、ホテル利用料の税率を7%に下げて税収を減らすのは矛盾していないか? なぜ観光業優遇なのか、観光の中でホテルが優遇されるのか? 逆に、観光客だって売春宿を利用するのに、なぜ売春宿は差別されることになったのか?*6 メルケル政権とホテル業界の関係はクリーンなのか? またドイツの例は、軽減税率が既に「生活必需品除外」とか「弱者保護」と無関係な産業政策である点にも注意が必要です。

こうした歪みが、日本でも今まさに決まろうとしているのではないか? 気になるところです。

新聞の役立たず宣言

新聞が教えてくれる、もう一つの大事なことは「この問題で私たち新聞は役立たずです」という自白です。
自分たちが軽減税率適用を求めているので、自分たち以外の業界が動いていても見て見ぬふりをすることになるでしょう。「A業界団体から不自然な政治献金。軽減税率と引き換えか?」とか、「大量の天下り受け入れでB業界に軽減税率が適用されそうだが、こんなものが生活必需品なのか?」など反・軽減税率な記事を書けば自分の首を絞めることになるので、新聞は「軽減税率は素晴らしい、必要な制度。欧州諸国も採用してまーす」と言い続けるしかありません。

新聞協会のわかりやすい傲慢さに腹を立てるより、その向こうで静かに進んでいるらしい動きを警戒するべきだと思います。


おまけ・過去エントリー

私は軽減税率という制度に反対です。税率優遇を巡って政治と業界の間に利権や癒着を生み、複雑な線引きでゆがんだ税制になり、弱者保護や逆進性解消には貢献しないダメ制度だと考えています。2010年に、何件かそうしたエントリーを書いているので、興味がある方はご一読ください。

2010-06-21「軽減税率→NO! 税の還付→YES!」
食料品は生活必需品ではないこと、食料品より自転車や自動車を軽減税率にする方が適切な場合もあることを説明して軽減税率に反対し、消費税率8%引き上げ時に政府が予定している「住民税の非課税世帯に1万〜1万5千円を支給する」とする施策に似た制度を推薦しています。

2010-06-25「軽減税率にNO! 実例編」
フランスのキャビア問題をはじめ、欧州の軽減税率のおかしな事例を紹介しています。

2010-08-03「弱者に優しい消費税」
消費税が逆進性を生む原因は貧富による貯蓄の有無ですが、それはつきつめれば遺産の有無になるので、相続税を見直せば逆進性は解消できる。また、税の逆進性は徴税だけで判断するのでなく、徴税+給付のトータルで判断すべきという意見を書いています。

*1:これも産経新聞『主張』の中に出てくる文です

*2:もしご存知の方がいればご教示ください

*3:ベビー レース シルク ガウン アイボリーという商品が一着210,600円

*4:ボア レザー ライダースジャケット ブラックという商品が一着103,000円

*5:子供用レザースニーカーが一足67,000円。以上三点は某通販サイトで検索しました。

*6:ドイツでは2002年から売春は合法です