水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

2020年、日本で大家族が復活する日

面白い本を読んだのでその内容を紹介し、最後に我流の未来予想をしてみたいと思います。
参考文献:「イヴの乳 動物行動学から見た子育ての進化と変遷」 小原嘉明

激変しているヒトの家族

多様な動物の家族について説明した後で、ヒトの家族が進化と共にどんどん変化してきたことが、本書の最後9・10章あたりに書かれています。
動物の家族の形態は様々ですが、哺乳類のほとんどは母子家族で父親が子育てを手伝う種は5%に満たないそうです。現在アフリカのサバンナに生息しているゲラダヒヒやマントヒヒも母子家族なので、おそらくヒトもサルだった頃は母子家族だったと想像されます。例えば鳥類ではカルガモは母子家族です。母ガモの後を可愛いヒナ達がよちよち歩く姿はお馴染み。メスだけで育児可能な場合、オスは協力せず他のメスを探し回り交尾回数を増やして自分の遺伝子コピーを増やそうとします。
他方、南極の皇帝ペンギンはオスとメスが協力して育児に当たります。極限の寒さの中、オスも交代で卵やヒナを温め続けます。核家族(二親家族)化する理由は明白で、そうしないとヒナが生き残れないためです。オスは仮に何匹ものメスと交尾しても、その後放置すると全てのメスが育児に失敗しヒナは全滅するので意味がなく、結果、一夫一婦を形成して一匹のヒナの生存に全力を注ぎます。
さて人間です。サルが直立二足歩行を始めヒトに変わることで激変が生じます。骨盤が邪魔して産道が太くできなくなった一方で、脳がどんどん巨大化していきます。結果、ヒトはそのままでは出産不可能になるという事態に直面します。そこで、産道を通れるうちに、未熟児で子供を産み落とすことにしました。サルの赤ちゃんと違い、首もすわらず自力で母親にしがみつくことさえできません。育児が困難になりオスの協力が不可欠になった、というのが現在の仮説だそうです。片親から核家族にチェンジです。
さらに進化して集団で狩猟や農業をするようになり、多人数での協力が必要になったためそれに合わせて大家族化が進行しました。ちなみにアフリカに住むセグロジャッカルでは、育てられている子供の兄や姉が巣にとどまり、餌をとったり捕食者を撃退するなど「ヘルパー」として活躍する大家族を形成します。これは夫婦だけでは育児が困難なためで、ヘルパーが1頭増えるごとに子の生残数が1.5頭増えるそうです。
サルからヒト、そして人間へ。片親から核家族を経て大家族に至る遠大な歴史です。
ところが一転、近代以降に家族形態は逆流します。農業から離れ都市での工業・商業従事になったため大家族は不要になり、核家族が復活しました。そして現代、女性の社会進出が進んで経済的自立が可能になりました。経済力が強い女性の中には「子供は欲しいが夫はいらない」といった「強い母子家族」も例外的にはありえる時代になりました。
これが近代から現代まで。母子家族に始まったヒトの家族の歴史は一旦大家族になり、一周して母子家族まで戻った形です。なるほどなぁ。

グローバル時代の再・大家族

延々と、参考文献の受け売りを書いてしまいました。でも面白そうでしょ、この本。(1〜7章は、昆虫・魚類・鳥類・哺乳類など多彩な生き物の家族の話、利害の対立や生存戦略が説明されています。)
で、この先を自分なりに考えてみました。それは、ヒトの家族像がもう一回、再逆流するかもしれないってことです。

グローバル化による低所得化&雇用不安定化でシングルインカムでの家族維持が困難になっています。かつての核家族(夫は正社員で妻は専業主婦)とは異なる、共働き前提の核家族の増大です。
更に、核家族の形成が困難な人も増えています。子供がいなければ二人で年収600万円(300万円*2)あれば十分ですが、結婚し子供ができると出産からの一時期「三人で」年収300万円になります。これは厳しい。非正規雇用では妻が再就職できる保証もありません。そうなると生活は困窮しかねず、妊娠を避けたり、あるいは結婚自体に躊躇せざるを得ません。婚活女性が「年収600万円以上の男」といった無理目な条件を求めたりするのは、困窮リスクを回避したい切実な欲求ともいえます。

ジャッカルを例に、夫婦で子育て困難な動物は大家族を形成することを紹介しました。かつてヒトも近代までずっとそうしていました。じゃあそれを復活させればいいんじゃないの?。具体的には父母世代と子世代の同居です。
「姑と同居なんて絶対イヤ!!。長男との結婚なんてムリムリ」と女性たちは言います。何故でしょう。
理由は二つあります。第一は、近代化で大家族を形成しなくても子育て可能になったことです。動物も、大家族不要なら大家族を形成しません。でも先に書いたように、二人では子供を育てられない社会情勢が戻ってきています。
もう一つの同居拒否理由は、世代間で価値観の差が大きいことです。昭和の家父長制や、夫は社会・妻は家という価値観に染まった世代と、そうでない世代では何かと意見が対立し同居はシンドイでしょう。
でも、失われた時代は既に20年を突破しています。もう少し、あと10年経てば嫁姑の世代間対立は大きく解消する気がします。2020年代には70年代生まれの団塊ジュニアが50代になります。この世代は、均等法で女性も働くことを知っています。就職氷河期を経験し、正社員になることが困難なのを知っています。非正規雇用の悲哀を知っています。日本経済がまったく成長しないことを知っています。
団塊ジュニア世代と、その子供世代は「同じ時代」を生きており分かり合えるはず。だったら同居してもいいのでは?。結婚しないとパラサイトシングルと批判されますが、結婚すれば立派なサザエさんファミリー。費用分担すれば生活費も割安にできます。若者四人でお金出し合って4LDKのマンションにルームシェアするなら、父母夫婦と自分たち夫婦で家賃折半してマンションに同居してもいいのでは?。
今は、キャリア積んで地位と経済的安定を確保しないと結婚・出産できないので初婚年齢はどんどん上がっています。でも大家族制なら早く結婚できます。いや、早い方が良い。両親が50代なら体力的に育児支援も期待できます。最大フォーインカムなら、誰かが失業しても余力がある。子供ができてもスリーインカム可能。妻が復職できたら父か母が50代で早期引退するもよし、四人交代で保育園まで送り迎えするもよし。
中南米やフィリピンあたりの貧しい国では大家族制が当たり前。そのモデルを貧しくなった日本人も活用するのです。

両親世代にもメリットがあります。
時間とともに、年金制度は本格的に崩壊していくでしょう。年金だけでなく社会保障は縮小する一方。増税も本格化し、団塊ジュニア世代はおそらく貯蓄も低水準なのでムダ使いはしたくない。つまり将来老夫婦だけで世帯を持つことが贅沢品化していくわけです。息子or娘夫婦とハウスシェアなりルームシェアして生活費節約するのはウェルカムになっていくのではないでしょうか。
もちろん、全員が大家族にする必要なんてありません。そもそも結婚なんてしたくない人、子供欲しくない人はそれも自由。勝ち組高所得者はシングルインカム型の核家族にすればいいし、もっと勝ち組はフィリピン人のメイドさんでも雇って優秀な精子バンク活用して片親家族を作ってもいい。でも、負け組低所得者層でも結婚したい人はできる、子供欲しい人は持てる社会であって欲しい。大家族は、そのソリューションにならないでしょうか。