水色あひるblog

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第三の対立

円高が日本経済に深刻な影響を与えると言われていますが、個人的にはあまりピンと来ません。他方、円高の恩恵についてなら日々これを実感しています。
農水省の資料によると、2010年度の小麦の自給率は9%、大豆は6%、牛肉は42%、魚介類(食用)でさえ60%となっています。*1

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小麦の国際価格はこの10年で、1トン100ドル近辺から300ドル近辺へ3倍に跳ね上がっています。同じ期間に円が1ドル120円から80円へと上がってくれたおかげで、円建てでは2倍で済み、製品価格の上昇を抑えています。今、3玉98円でうどんを買えるのも1斤88円で食パンを買えるのも円高のおかげです。我が家にあるスパゲティはmade in ギリシャです。小麦で輸入せず製麺までギリシャで済ませているので、円高がさらに生きて1kg198円の安さです。
大豆の国際価格はこの10年で、1トン200ドル近辺から500ドル近辺に2.5倍に跳ね上がっています。同じ期間に円が(以下略)。豆腐を一丁57円で買えるのも、納豆を3パック68円で買えるのも円高のおかげです。
豪州産牛肉が100g128円で買えるのも、ノルウェー産冷凍サバが1切89円で買えるのも円高のおかげです。エジプト産ジャムや英国産チョコ、米国産クッキー、韓国産スナック菓子などが格安で売られているのも円高のおかげです。
食品だけではありません。UNIQLOの服もニトリの家具も、円高になるほど価格は更に安くする事が出来るようになり、DAISOが105円で売って採算の取れる商品も豊富になります。「原発を全て止めると液化天然ガス(LNG)や石油などの燃料費の負担増が年間3兆円以上になる」との試算を政府は発表していますが、負担増が「たった」3兆円で済むのも円高のおかげで、1ドル120円なら4兆5000億円かかったはずです。電気代の値上げが小幅で済むのも円高のおかげです。
私の質素な暮らしは、ほぼ全面的に円高から恩恵を受けています。円高万歳。もちろん、私には直接関係なくても円高によるTOYOTAPanasonicの業績悪化は経済全般にマイナスの影響をもたらし、間接的に巡り巡って私にも帰ってくるでしょう。しかし同時に、UNIQLOニトリやDAISOの業績改善も経済全般への影響から巡り巡って私にもプラスの影響をもたらすでしょう。

日本にはいくつかの対立点があります。田中角栄の時代にまで遡る、公共事業予算や補助金を巡る地方と都市の対立。近年利益相反が先鋭化している、社会保障制度を巡る高齢者と若者の対立。為替レートは、第三の対立点かもしれません。誰かにとって円安が都合良いことは、誰かにとっては不利益なのです。

韓国

お隣さん韓国の現状は、日本の対照例として見る事が出来ます。近年はウォン安傾向にあり、SAMSUNGやHYUNDAIが通貨安をテコに儲けいているのはズルいという声もあります。しかしそうしたメリットに副作用がない訳ではありません。韓国の食糧事情は日本に似ています。米の自給率は98%ですが、小麦は0.9%、大豆32.5%と低く、トータル自給率は51.4%だそうです*2。ウォン安は当然輸入物価から国内物価に波及します。

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2005年を100として、物価が2割、食品が3割上昇しています。6年で食い物の値段が3割値上がりすると言うのは、なかなかキツイ話です。ちなみに日本は、同じく2005年を100とすると、2010年は総合物価が99.6(下げてる!)、食料が103.3となっています。*3韓国の勝ち組トップ企業の利益は、庶民が物価上昇に我慢することと引き換えで得られているのです。

政府

政府は円高対策に力を入れています。私にとっては円高万歳なのですが、政府にとっては円高は良くない事のようです。それは、UNIQLOニトリやDAISOといった円高でメリットがある企業より、円安が国益だと主張する業界・企業の方が政治的影響力が強いと言うことかもしれません。若者より老人の方が政治的影響力が強いように。
もう一つ、読売新聞の記事から、政府が出してきた円高対策のラインナップを見てみましょう。
雇用調整助成金の要件緩和…厚労省
中小企業への金融支援の拡充…経産省配下の中小企業庁
訪日旅行者数が減少している観光業の支援…国交省配下の観光庁
節電エコ補助金・住宅版エコポイント…経産省
円高対応緊急ファシリティ(基金)…財務省
まぁ要するに、円高で日本が大変だ!補助金がもっともーっと必要だ!!!と叫ぶ事が各省庁にとっては予算増額の絶好の口実だということです。支援が目的なら、財務省なら税率の引き下げを提案したり、各省庁は許認可制になっているものを登録制にするとか、設置・運用基準を緩和するとか特区を提案するという方策もあるのですが、そうではなく新たな金を要する策を出してきます。

テレビ

メディアは相変わらず、円高の危機を煽っています。が、1985年のプラザ合意の頃のパニック的ヒステリー的産業が壊滅する的日本が崩壊する的石油危機より遥かに深刻だ的な報道に比べれば、だいぶんテンションが落ちてきている感じはします。
テレビのニュース番組は賢くなったのでしょうか?。それは考えられない気がします。飽きてきた、というのはあるでしょう。ずっと同じ事を叫んでいると視聴者が飽きて視聴率が下がるので、メディアのテンションも落ちます。
もう一つは、スポンサーの関係もあるかもしれません。1985年にテレビCMを出していたのはTOYOTASONYでしたから、円高を悪魔のように罵らねばなりません。今は、TOYOTAのCMも大事ですがUNIQLOのCMも無視できません。GREEDeNAのように、強い円を使って海外展開を進めている最近元気なスポンサーのご機嫌も損ねてはなりません。大人としてはバランスに気を遣う所です。
今後のスポンサーの変化によっては、5年後にはテレビは円安の恐怖を煽っているかもしれません。

追記:真面目に考えれば、対立点は三つどころか他にもっとある訳ですが、タイトルとして座りがいいのでこのままにしときます。

*1:全て重量ベース

*2:データの出所はコチラ

*3:データの出所はコチラ