水色あひるblog

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年金保険料は誰が払うべきか

現在の賦課方式の年金が上手くいくor正当化されるには二つの条件があります。(1)高齢者世代より現役世代の方が人数が多い。(2)高齢者世代より現役世代の方が裕福。
日本が年金制度の整備を進めていた60-70年代にはこの条件が良く当てはまっていました。

(1)1970年時点で65歳以上の高齢人口は740万人で、対する15-64歳人口は7200万人。老人1人を現役9.8人で支えれば良く、薄い負担で手厚い年金を支給できます。
(2)1970年時点で70歳の人は1900年生まれです。27歳で昭和金融恐慌、31歳で満州事変。30代と40代は戦争と戦後の混乱期で過ごしました。高度成長期の始期と言われる1954年にはもう54歳。こうした世代に、自分が働いて得た給料で老後の備えをしておけというのは無理な話です。それに対して、1970年に30歳の人は1940年生まれです。幼い頃は戦争で大変だったでしょうが、高度成長期の始期と言われる1954年に14歳。完全雇用(1970年の失業率は1.2%)・正社員の終身雇用・年功序列といった経済成長の恩恵をふんだんに受けています。
こうした豊かな現役世代が貧しい高齢世代に所得移転を行うのはもっともな事に思えます。

現在、条件(1)は2009年現在で15-64歳人口8100万人に対して65歳以上人口は2900万人で比率は2.8:1と非常に厳しくなっており、そして条件(2)も崩れています。2010年時点で70歳の人は1940年生まれ、まさに先ほど豊かな世代と紹介した高度成長の寵児です。高度成長の後は石油ショックを挟んで40代でバブルを経験。50代に入ってバブル崩壊・窓際族・早期退職などを経験しましたが、下の世代よりは遥かに恵まれています。2010年に30歳の人は1980年生まれ。低所得・不安定な非正規雇用就職氷河期&高失業(2010年の失業率は5.1%)といった二重苦三重苦の世代です。
貧しくて人数の少ない世代から豊かで人数の多い世代に所得移転を行うのは、不適切で持続不可能です。

誰が団塊&その前後世代の年金を負担すべきか?。それは、同じ世代の人達ではないでしょうか。世代内の豊かなお金、余ったお金を同世代の年金に回してもらうのです。
とは言え、既に引退した世代はフローとしての収入が少ないので所得税で徴税するのは難しく、そこで注目されるのが相続税です。

日経新聞の今日(8/14)の記事によると、2010年現在、年間ざっと120万人が死亡して50兆円の相続が発生しているそうです。50兆円!!。さすが高度成長の寵児。個人金融資産1400兆円の6割を60代以上が保有しているだけの事はあります。
しかし、2010年度の相続税収はわずか1兆3000億円。実効税率3%にも満たない低率です。最高税率が50%もあるのに税収がこれほど少ないのは、基礎控除が5000万円+(1000万円×相続人数)など控除が極めて手厚く、実際に相続税を納めている課税割合は4.1%、死亡数の96%が課税対象外になっているためです。

相続税収を増やすには税率をもっと上げる手もあります。実際、今政府は最高税率を55%に上げようとしています。が、海外を見ると香港・シンガポール・豪・加など相続税を廃止している国も多く日本の50%は極めて厳しいので、ここから更に税率を上げると資産を海外に移す課税逃れがどんどん増えるでしょう。
逆に、低税率にするかわりに、控除をほとんど廃止するのはどうでしょう。少しでも遺産のある人は、少し税を払ってもらうのです。政府は、基礎控除を3000万円+(600万円×相続人数)にする予定ですが、そんな微調整でなくもっと徹底的に。
例えば控除を一律500万円のみ、税率を一律10%にします。遺産が1000万円なら相続税50万円、3000万円で相続税250万円、5000万円で450万円になります。これくらいなら、相続人の立場で考えても払ってもいいのではないでしょうか。
120万人×500万円で控除対象合計が6兆円。遺産が500万円に満たない人もいるでしょうから非課税遺産額を5兆円とすると、課税対象が45兆円になり、10%で4.5兆円の税収になります。完全な一律税率もどうかと思うので、少し累進性を上乗せして富裕層から+0.5兆円の税収を得るとして新相続税収=5兆円です。

対する、年金支給額は2008年に49.5兆円あります。49.5兆円の年金に対して5兆円の相続税収。焼け石に水という声もあるかもしれませんが、氷河期世代から高度成長寵児世代への所得移転を年5兆円減額できると言うのは重要ではないでしょうか?。

今後、高齢者が増えて年金支給額も増えていく間は、死亡者・相続資産額も増えていくのも利点だと思います。