水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

キャバクラ労組に見る、労組のあるべき姿

例えば、大手電機メーカーの下請けで、同じような部品を製造して競合関係にあるA社・B社があるとします。A社の労組は真剣で、際限ない賃下げに抵抗し、労基法に定められた通り残業手当を要求し、有給休暇の取得を求め、適切な36協定を締結して過酷な所定外労働をさせないように経営側に求めたとします。他方B社の労組は完全な御用組合で、経営側のいいなりで賃金を下げ、リストラを受け入れて残った人間は過労死するまで無制限タダ働きの残業に従事し、有給休暇は熱が40℃くらい出た時か親族の死亡でしか使えないとします。
親会社からの無理な価格引き下げ要求に応え、コスト低減競争に勝って存続するのはB社になります。より劣悪な条件を労働者に押し付けた労働組合とその企業が生き残るシステムになっています。企業の利益を守ることが労組の目的と化してしまう企業別労組は、致命的な欠陥を抱えています。もしAB両労組が密接に連携してB労組がA労組と同等の労働条件を獲得し、B社が不当な手段でコスト競争を行う事を阻止できれば、AB労組は実質的な業種別または職種別労組と言えます。でも実際には、日本の多くの企業で労組は自社の経営側とべったりになって労組として機能していません。
比較しやすいように下請けのA社B社と書きましたが、親会社P社とS社の労組でも、自動車メーカーのT社H社でも同じことです。

労使協調路線」が発達したのは高度成長期です。経済がどんどん成長するので、経営側と労働側でパイの奪い合いをするより、手を取り合ってパイを大きくする方が得だった訳です。下手にストなんぞ打って、その隙に同業他社にシェアを奪われれば自分達が損をします。パイの拡大に手を貸せば、経営側と争うと言った面倒なプロセスを経なくても十分な賃上げが得られたので労組も楽でした。
聞いた話ですが、労使対決路線から協調路線に転換されつつあった時期、春闘になると同業各社の労組が集まって、どの労組が先頭切ってストを打つか腹の探り合いと言うか、もっと言えば「押し付け合い」が行われていたそうです。その後、労組はあからさまな御用組合と化して腹の探り合いの必要もない、ストなど行われない時代になりました。国鉄の労組が最後までストを打っていたのは、自社が赤字垂れ流しでも平気だったからでしょう。
私が勤めていた会社では、労組の次期執行部を決定するのは人事部の仕事でした。数代先までの交代を考慮してリストアップし、所属長に根回ししてから労組にペーパーを渡せば、その通りの執行部が「選出」されていました。それは決して異例な事でなく、似たような企業は日本中にたくさんあるでしょう。「労働組合」は、人事部が所管する従業員管理&福利厚生施策の一部なのです。日本の、特に大企業では。

高度成長は遠い過去の話になり、パイの拡大がなくなり、失業率が上がり、デフレ圧力がかかり続けている今、企業別労組は労組として機能不全なだけでなく、労働者にとって有害ですらあります。一方では、自社の経営側と対決する能力がないからリストラを拒絶することもサービス残業を廃絶もできず、他方では既得権益を失いたくないから、同じ工場の同じラインで働いていても正社員だけが組合員で非正規雇用は「余所者」扱いです。最近は、非正規雇用の労働条件改善にも取り組むとの動きもありますが、いかにもアリバイ作りで、正社員労組が本気で非正規雇用労働者を助けようとしているようには見えません。
かつて日本経済が高成長だった頃は、企業別労組の方が「正しい」ように思えました。欧米の業種別・職種別労組は強過ぎてむしろ企業を疲弊させている。残業代が出なくても、有給が使えなくても、企業が成長すれば長期的には賃金で報われるのだからそちらの方が利益になると多くの人が感じていました。
でもそれは、成長期が永遠に続くと言う幻想に基づく最適化戦略で、幻想の果てに生まれたのは、労基法さえ守らせられない、守らせようともしない無意味な団体でした。

キャバクラ労組:旗揚げ セクハラ、違法な天引き・罰金…無法地帯変えたい
生まれたばかりのキャバクラ労組は、労組本来の姿をしています。クラブ・ディーバ労組やエルミタージュ労組、ミュゼルバ労組ではなく、キャバ嬢という職種を対象とした労組だという点です。どの店に属しているかに関係なく、不当な罰金や天引き、賃金不払いと闘う訳です。この取り組みがうまくいくか、多くのキャバ嬢の参加を得られるかはわかりません。でも、上手くいけばいいな、頑張って欲しいなと思います。
すっかり「奇形進化の袋小路」に嵌っている日本の労組全部を、今さら業種別・職種別労組に再生するのは不可能でしょうが、特異性のある職種〜例えばナースとかトラックドライバーとか〜では、横の連携を取って戦線を統一すれば、無茶苦茶なシフトや深夜勤務や長時間連続勤務を改善していけるのではないかと思います。