水色あひるblog

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ペナルティなきウォール街

米金融大手の今年の報酬支給額が前年比2割増の計1400億ドル(約12兆4000億円)に達するとの試算を明らかにした。これは、米株式相場が最高値を記録した2007年の水準(1300億ドル)を上回り過去最高。(中略)ゴールドマンの従業員1人当たり報酬額は、前年比2倍の74万3000ドル(約6600万円)になるとみられている。

http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2009101400558

ウォール街の問題点は、報酬が異様なまでに高額という事より、従業員に課せられる適切なペナルティが何もないという事だと思います。米国流の金融業を礼賛するエコノミストの中には、「リーマンショックによって投資銀行に勤めていた人たちは失敗の責任を問われて解雇された。だから、きちんと責任を取っている。」という趣旨のことを話していますが、それはどうでしょうか。
日本の大手企業に勤めるサラリーマンならば、終身雇用を期待していて、定年を迎えた際にまとまった退職金を受け取ることを期待していますから、途中で解雇されることは意味のあるペナルティといえます。途中解雇されたくないので、過度にリスキーな取引には手を出さないと言う抑制効果もあるかもしれません。けれど、ウォール街の住人は全く異なります。
ウォール街で会社に巨額の利益をもたらしているエリート行員たちは、億円単位、あるいは10億円単位の成功報酬をその年々に受け取っています。サブプライムローン組み込み商品のようないずれは破綻する異常な商品を開発しておいて、調子良くいっている間に何十億円もの報酬を受け取り、やがて商品が破綻して世界が金融恐慌の淵に立たされた場合に受けるペナルティが「ただ解雇されるだけ」。これでは痛くも痒くもない、受取済みの報酬に比してペナルティが小さすぎるでしょう。

どれほどリスクの高い行為でも成功すれば巨額の報酬になり失敗しても解雇されるだけ、ですから、目の前の利益を追求するインセンティブばかりが働き、エリート達の競争がリスク選好をどんどん過剰化させる構造になっています。一人ひとりが強欲か金の亡者かという問題でなく、業界のルール自体が強欲になるよう仕組まれている感じです。
どうすればいいのか。報酬に上限を設定すると言う意見もあるようですが、それはいかにも社会主義的でうまくいきそうに思えませんし、真に優れた金融商品を開発した人の報酬も制限されることになります。金融商品がどんどん高度化し複雑化していく中で、政府が、その新商品はまっとうな物か破綻必至な物かを事前に正しく判定できるとも思えません。あのグリーンスパン氏でさえ、膨れ上がるサブプライムローンのリスクを過小評価していたのですから。
日本の正社員サラリーマンがリスクに対して抑制的なのは、どれだけ巨額の利益を生んでもその時点では十分な報酬をもらえず、定年までの昇給と出世と退職金で報われる「分割払い」になっていることも影響しているかもしれません。つまり、自分が定年迎えるまでに化けの皮が剥げるような破綻含み商品には手を出せない訳です。
そういう意味では、ウォール街ストックオプションも行使できるようになるまでの満期年限に定めがあって同じような抑制効果があるはずなのですが…抑制効果は働いてないですよねぇ。満期年限が短いからダメなのか…、日本の終身雇用のように「満期年限はあなたが60歳になる時」とかにすれば効くのかなぁ。

日本の年功序列や同期の上下格差がせいぜい二倍程度といった横並び賃金も異能異才を潰している気がしますが、それで損をしているのはその会社自身と才能ある個人だけ。個人は不満なら辞めることもできます。報酬だけが無秩序に肥大化してペナルティが無いウォール街流は世界を破滅の渦に巻き込むだけに迷惑千万です。なんか良い方法はないものでしょうか。