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水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

お楽しみは2月末でしょ

退職金減額による「駆け込み退職」が各地で起きているようですが、興味を惹かれたのは、埼玉県では「今年度の県の定年退職者は約1300人(県警を除く)。このうち1月末での退職希望者は教員が89人、一般職員が約30人の計約120人となっている」とあり、退職時期を繰り上げた人が1割に満たないということです。2か月多く働いたら退職金が150万円も減額されるのに9割の人が働き続けるのは何故でしょう。
もちろん「可愛い生徒たちを学期途中で放り出したりできない」と考えた良い先生もいるでしょう。しかし、そういう積極的理由でなく「新しい事態に直面して、どうすればいいか自分で決断できなかった人」も多くいたのではないかと私は考えています。
例年なら年度の途中で退職金が変わったりすることはありません。誰でも年度末まで働き、3月末で退職します。それが「普通」「当たり前」「みんなそうする」です。ところが今年、突如奇妙な事態が生じて先生や職員たちは未知の変化に直面します。どうすべきか? 経済合理的に考えれば1月末で退職ですが、退職金規定が変わるのに合わせて退職月を調整する? そんな話聞いたことがありません。前例がありません。どうしたらいいんだろう、他の人はどうするんだろう。噂ではAさんは1月末で辞めるらしいとか、でもBさんCさんは普通に3月末まで働くらしい。1月末で辞めると露骨に強欲な気もするし、でも、長く働くと退職金減るのに勤務続けるなんておかしくない?
結局、混乱と迷いの中、多くの人は150万円損すると知りつつ「従来通り」で「変わったことをしない」道を選んだのではないか、という推測です。
埼玉県は2月以降切り下げ=1月末駆け込みでしたが、3月切り下げ実施の県もあります。山形県では「退職手当引き下げ 県、3月1日実施に悩む」茨城県では「3月下旬に施行される見通し。県内でも懸念が広がっている」など。楽しみなのは、2月末で辞めないと退職金支給額が減らされる県の人達がどう動くかです。

増えて、それから減った献金

こんな話があります。オランダのある教会では、口の閉じた袋を礼拝参加者に回して、その中に献金を入れてもらっていました。ある時、これを袋でなくカゴに変えたところ、善男善女の献金は増えました。しかし、カゴを回す方式をしばらく続けていると効果は薄れ、献金は減っていったそうです*1
前半の献金増加は、他人の目が気になる結果です。献金せずにカゴを回すところを周囲の人に見られるとケチで不信心だと思われます。そこで見栄を張って献金する。次にカゴを受け取った隣の人も同様の行動をとる。後半は逆作用が生じています。オープン方式が繰り返されることで、献金せずにカゴを回す人もチラホラ出てくる。その様子を見ていた人に、じゃあ私も無理に献金しなくてもいいだろう、という負の同調作用が働きます*2

金か名誉か

3月切り下げ=2月末駆け込みリミットの人たちにとっては、これはもう「前例なき事態」ではありません。マスコミを通じて他県で何が起きたかを知ることができています。そこでどうなるか? 
駆け込み退職すると「無責任」「教師としての矜持がない」などと批判されることがわかりました。これは献金話の前半に似た状況です。マスコミが騒ぐのは一時の事ですが、注目浴びている最中に辞めるとご近所で「ほら、田中さんのダンナさんって…」「あぁ退職金で…」という噂はなかなか消えないかもしれません。
他方、退職金減額回避のために繰り上げ退職する、という決断・行動に出た人が大勢いることもわかりました。大勢というか、埼玉では実は1割弱に過ぎないのですが、メディアは「続々駆け込み」などと報じているので大勢との印象があります。これは献金話の後半に似ています。他の人がお金のために動いたなら、私も…。
どちらの同調作用が強いか? 私は駆け込み退職は増えると思うのですが皆さんはいかがでしょう。

差異の不思議

今回の出来事で、興味深かったのは埼玉で「動いたのは1割の人だけ」なことと、もう一つ「地域・職業で差がある」ことでした。朝日新聞の報道では、「1月から退職金が約140万円減る徳島県では昨年末に職員19人が退職。うち7人が教員」「佐賀県では、職員の退職金が1月から約150万円減る。昨年末までに教職員36人が辞めた」とあります。分母(定年退職予定者総数)が不明なので明確ではありませんが、教職員の規模から考えると埼玉の89人に比べ徳島の7人は低率で、佐賀の36人は高率のように見えます*3。この差は何から生じるのか?。
更に、警察官は教職員よりドライです。「兵庫県警では、3月末で定年退職になる約280人のうち約90人が2月末の退職を希望」「愛知県警では、3月に定年退職予定の289人のうち、署長を含む142人が2月末で早期退職の意向」。3割強、ほぼ5割。警察は元々、学期や学年という節目はなく、犯罪捜査にいつ切れ目が来るかわかるわけでもなく、いつ辞めても変わらない=年度途中でも辞めやすいのかもしれません。が、「突然起きた新事態に即断即応する能力」で、教職員より警察官の方が勝っているのかもしれません。それでも3割と5割の差は何でしょう?
行動経済学なんかを専門とされている学者さんたちにとっては、千載一遇の興味深い社会実験だと思うのですが、是非研究いただき、行動やその差異の理由について論じていただきたいなと思います。

*1:参考文献:「超ヤバい経済学」 スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー

*2:作者は前半の増加効果の事例としてこの話を紹介しており、後半の再低下についは特に説明していません。ので、そこは私の考えです

*3:文科省の学校基本調査・平成23年度・市町村別集計によると、公立小中高校の職員(本務)総人数は埼玉39,687人、徳島6,800人、佐賀7,143人となり、それぞれ5.8分の1、5.6分の1の規模です。年齢構成が不明なので、規模と定年者数がぴったりは比例しないでしょうが、まぁ目安として。