水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

震災復興増税は優しい嘘か

もともと財政再建論者で、代表選でも増税の必要性に言及していた野田氏が総理に就任したことで、「震災復興臨時増税」が現実味を帯びてきました。
しかし、震災復興費用の為に増税するのは不思議な考え方です。家計で考えてみます。家を買った時にローンを組むのは普通ですが、家賃や食費の支払いを借金に頼るのは普通ではありません。何故なら前者は「一度限りの異例の出費」だからローンを利用して支払いを平準化するのが妥当で、後者のような「毎月必要な経常的経費」は通常の収入の範囲内で収めるべきだからです。国家の予算でも同じで、社会保障費のような毎年かかる費用こそ毎年の税収でカバーすべきであり、震災復興のごとき異例で今回限りの特別経費は国債を発行して一定年限かけて返済する事が許されるものです。
確かマンキュー経済学では、国債発行で資金調達が許される特別な事例として「戦争」が挙げられていた気がします。今回の震災はまさに戦争並みの異常事態でしょう。決して、年金や医療費の負担を先送りしていいとは書かれていませんでした。

けれども、世間の考えは違います。朝日新聞8/25-26実施の世論調査では、

震災復興の財源にあてるため、増税することに賛成ですか。反対ですか。
賛成 51  反対 37

社会保障の財源にあてるため、消費税を引き上げることに、賛成ですか。反対ですか。
賛成 44  反対 45

http://www.asahi.com/special/08003/TKY201108260594.html

普通の予算の借金漬けを正す増税には反対で、復興予算なら認めるムードです。
最新の、9/2-3実施の世論調査では、

野田さんは、震災復興増税や、社会保障の財源確保のための消費税引き上げに、積極的な姿勢を示してきました。こうした野田さんの姿勢を評価しますか。評価しませんか。
評価する 57
評価しない 32

http://www.asahi.com/politics/update/0903/TKY201109030519.html

二つの理由を合わせ技にすると更に許容度が増すことが分かりました。増税と言うまったく同じ行為なのに、質問の提示の仕方で反応が変わるというのは実に感情的です。
しかし、財務省としてはどんな理由であろうと国民の過半数が増税を許容するという流れに乗らない手はありません。社会保障財源と言う名目であろうと、震災復興財源と言う名前だろうとお金に色が付いている訳ではなく、例えば5兆円増税できれば何費用だろうと5兆円の増収であって、5兆円国債発行を抑制できることに変わりありません。民主党としても、選挙への悪影響最小で増税を実現できるなら、こんなありがたいことはありません。

国民としては、震災という悲惨な話を持ち出され、かつ復興のための「臨時」増税ですよと言われれば、増税は一時的な物だと理解して寛容になれるのでしょう。
でも、増税が一時的な物で済むはずは無いでしょう。いざ数年たって増税を解除する約束の時が来たとします。数年後といえば、国債発行残高は1000兆円を超え、GDP比2倍突破という事態に直面しているでしょう。そんな時に、「毎年40兆円も赤字垂れ流しなのに、本気でこの5兆円を手放すの?。更に財政赤字を拡大するの?。今ってそんなことできる状態?。それで財政破綻しないの?。正気?。」となるでしょう。
ガソリン税暫定税率を廃止するとマニフェストにうたっていた話が実現不可能になり、せめてその代わりと導入されたトリガー条項も震災後に廃止されたように、震災復興の「臨時」増税も、その後「延長」して事実上の恒久税にせざるを得ないでしょう。

国民をだますような方法でしか増税できないのは不幸です。とはいえ、民意に従って財政破綻に向けて転落していくのとどっちがマシか?、という議論になると難しい。「今回の増税は、震災復興までの時限的、臨時の措置です」と言い切るのが、優しさなのかもしれません。
ま、どのみち数年後は既に民主党政権ではないので、「臨時措置」という約束を破る責めを負うのは彼らじゃない気もしますが。