水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

女性が、労働力として男性に劣る理由

1986年に男女雇用機会均等法が施行されて25年がたちましたが、なかなか平等な雇用は実現しません。

グラフ(1)(2)は、男女別に見た年齢階層別、人口に占める正規雇用非正規雇用の比率を示しています。*1(1)の女性の場合、グラフは「X」のような形になります。20代で正社員として雇用されても30代で子供を産む年齢になると一部の人が退職し(右下がりの青線)、その人はどうなるかと言えば、しばらくして非正規雇用として戻ってきます(右上がりの赤線)。また、(2)男性とはそもそも採用の時点で正規雇用される比率が大きく違います。
女性は正規雇用として勤務が続けられない、ので入口の段階から枠が絞られる。法施行から25年もたってこの状況は、単に差別と言うより、労働力としての女性に何か男性より劣る点がある為だろうと認めざるを得ません。

日本の労働者、特に正社員は、長時間労働によって人手不足をカバーしています。平成22年度に過労死認定され労災支給された事例が285件あります(ちなみに労災の「請求」は802件出されています。まぁ802件でさえ実際の過労死の一部でしょうが)。*2その285件の残業時間を見ると、80-100時間が92件。100時間以上が148件でその内20件は160時間以上となっています。160時間以上って…。ちなみに285件中92%は正社員*3です。しかし保育園にお迎えに行かなければならない女性は、こうした長時間労働の要望に応えられません。
同じく正社員では、残業代不払いが実質賃金を抑える役割として重用されています。例えばある男性正社員に月給32万円を支給するとして、その男性が所定内労働160時間+残業80時間の計240時間働けば実質時給は1333円ですが、同期の女性社員(保育園へのお迎え付き)にうっかり平等に賃金を支給すると、残業できないので実質時給は2000円と男性の1.5倍割高になります。こんな不合理はありません。
また、正社員では単身赴任の問題もあります。男性は、育児を全面放棄できるから子供を置き去りにどこへでも異動できるのであり、子供と残された女性側は単身赴任できません。
こうして正規雇用から非正規へ「X」字状の女性のドロップアウトが生じます。

また、女性の中にも将来出産する女性としない女性がいます。ただ残念ながら女性の額を見ても「将来出産あり」「なし」といった刻印が押されている訳ではないので人事担当者に見分けはつかず、結果、採用の段階からなるべく男性を中心にし、女性は突出して優秀な人だけに限定しようとする傾向も起きてきます。*4

結局、社畜として高度に適応が進んでいる男性と比べ、出産や育児リスクを抱える女性は社畜適応度で勝てない。正社員として雇用するには色々と不便でコスト的にも見劣りがする事が入口規制と途中退出の原因であり、女性を登用しない企業は差別でなく合理的に安い労働力を選んでいるだけです。

これは、道路交通に似ています。近所に制限速度40km/hと標識が出ている道路がありますが、時速40km以下で走っている車を見た事がありません。概ね50km弱とか、その辺のスピードで走行する事が道路全体の自然な流れになっています。もしここに、一台だけ時速39kmで走っている車がいたら、それは道路交通全体にとって邪魔で迷惑です。50kmで走る後続の車からクラクションを鳴らされ、パッシングされ、やがて道路から追い出されてしまうでしょう。
政府は、「時速39kmで走る車にパッシングするのは止めましょう」とか「時速39kmで走る車が道路に入ってくるのを差別せず歓迎しましょう」と言っていますが、それって、周囲の車が時速50kmで走るのを止めさせれば勝手に解決する問題じゃないの?と思います。

異常なのは女性の労働のあり方でなく、男性の働き方です。男性が社畜労働する構造は温存しつつ、女性に対して「育児と就労を両立できるワークライフバランス」とやらを提供すればコスト格差はなくならず、合理的に行動する企業にとって女性採用はずっと負担です。

独特の進化を突き詰めて袋小路に入ってしまう事をガラパゴス化すると言われますが、日本の男性正社員の労働慣行は携帯よりもガラパゴスかもしれません。
徹底した男性の長時間労働と家事育児に専念する女性との分業システムは、高度成長期に定着し当時はそれがうまくいっていました。順調な経済成長と終身雇用と年功序列のセットで、男性は我慢すれば年々給与も上がり、いずれ郊外に庭付き一戸建てを買える。時代とともに利点は失われて行きましたが、長時間労働と残業代不払いのセットでかろうじて命脈を保っている現状、この浮輪を外すと船が沈む恐れがありおいそれと改革する事は出来ません。

どう解決するか考えると、結局、現実の生産性や付加価値が低いのだから正社員の賃金を下げるしかありません。ただ、下げ方が問題で月給32万円をいくらに下げても、社畜労働可の男性と不可の女性では実質的なコスト格差はなくなりません。ので、ここは思い切って正社員の月給制を廃止して、一旦全員時給にしてはどうでしょう。時給1333円にすれば、男性は240時間働いて32万円。女性は160時間働いて21.3万円です。
男性の賃金以前と同じじゃん、となりますが、あくまで所定内労働160時間の付加価値(給与)は21.3万円で女性と同額。あとは80時間残業して10.7万です。女性の給与は大きく下がりますが、(男性と同能力の場合)それが160時間の実際の付加価値なので仕方ありません。
大事な事は、残業できない人の雇用割高感を消して*5、長時間労働に対応できない女性の雇用を忌避する必要を無くす事です。全ての車が時速39kmになれば、時速39kmの車を追い出したり流入を阻止する必要はなくなります。
進化の袋小路の元凶は「実態付加価値やコスト競争力の低下に合わせて賃金を下げられなかった」→「サービス残業に依存し、タダで残業してもらわないと採算取れない賃金になっていた」→「長時間労働できない女性はコスト劣位になり雇用は困難だった」という流れで、これを実態付加価値に合わせた時給制にすることで労働時間の長短に柔軟に対応できるようになります。

そうなれば、今度は男性が残業を減らしても減らした分だけ企業のコスト(賃金)が下がるので、男性が残業しない事も許容できるようになります。一部の男性が残業を減らして家事育児に参加しても、企業は損しないことになります。男でも女でも誰か二人が残業0にすれば、計160時間分生産能力が低下して同時に160時間分支払賃金も減るので、あと一人追加で雇用して追加コストなしで埋め合わせが出来ます。*6
平均労働時間を減らしてもいいということになれば、ワークライフバランスとやらを男女双方に適応できるようになります。

女性のコスト劣位が無くなれば、企業は女性の雇用を増やすはずです。有能無能な男性10名雇うより、有能な男性5+有能女性5の方が生産性が上がりますから。
そう考えると、男性が過酷なサービス残業や長時間労働にあえて耐えているのは、もしかすると女性に対する男性のコスト優位を形成し、男性が優先的に雇用される現状を崩さないための既得権益維持戦略なのかもしれません。

電力不足の昨今、「節電の為残業しない」という取り組みが起きつつあるようです。*7しかも、菅総理の思いつきのおかげで、電力不足は東京圏のみならず全国的に広がり、かつ今後何年間も解消されない様相です。
男女とも残業しない労働慣行が広がれば、もしかしてコスト差がなくなって女性も平等に雇用される時代が来るのでしょうか?。あるいは、電力不足で企業が次々と海外に流出し、平等に男も女も就職できない時代が来るのでしょうか?。


*1:データはココ。分子は第9表。男性はtableのA009(16)、女性はtableのA009(31)で、「正規」とは「9:会社などの役員」と「12:正規の職員・従業者」の計。「非正規」とは「13:パート」から「18:その他」までの計。分母は第1表。男性は20、女性は39の各K列〜S列。自営業主や家族従業者は正規にも非正規にも含んでいない。

*2:データはココ。p.12。

*3:正規職員・従業者

*4:あるいは、1989-90年の日本バブルや2006-07年のサブプライムバブルのピークの時だけ、どうしても男性採用のみでは必要数が確保できない時だけ、「我が社は女性の採用・育成に積極的です」と自称する企業がニョキニョキ生えてきます。

*5:えぇ、もちろん実際の雇用コストは直接支払われる賃金だけではない事は承知していますが、これはあくまで事態を簡略化して説明しているのでご理解ください。

*6:えぇ、もちろん実際の雇用コストは直接支払われる賃金だけではない事は承知していますが、以下略

*7:正直、残業しない事がピーク電力の需給改善に寄与するのか?、少し疑問なのですが。