水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

労働力不足社会とやらは、いつになったら来るのか?

急速に高齢化が進んでいる日本では、人口全体に占める生産年齢(15-64歳の労働に従事している年齢*1)の人口比率がどんどん下がっています。そのため、現在の人手が余っている高失業社会は不況がもたらす一時的な現象で、経済が普通レベルに戻れば長期的な労働力不足時代が来る、とする意見があります。私も、まぁそうかなと思っていましたが、そんな時代はなかなかやって来ません。近々来そうな気配もありません。
これは曖昧な言葉がもたらす誤解ではないかと思うようになりました。労働力不足と言う言葉の曖昧さです。



グラフ(上)は、1950-2009年の年齢階層別人口と生産年齢人口比率の推移、同(下)は同期間の完全失業率の推移です。
(上)を見ると、日本が高度成長期からバブル期にかけて人口ボーナスつまり人口に占める生産年齢人口比率が高い期間を享受してきた事、そして95年から同比率が下がっている事が分かります。確かに今後どんどん労働人口が減少して行く状況です。しかし(下)と見比べると話はおかしくなります。今後労働力が減少して人手不足になるのなら、逆に1970年や1990年は人手『余剰』のピークのはずであり、失業率は高いはずです。でも実際には、両年は失業率のボトムと言えます。人手が多くて、だけど人手が不足していたのです。
生産年齢人口比率と失業率には、控えめに言って相関関係はまるで無い。ヘタすると逆相関があるかもしれないグラフになっています。従って、今後労働力が減少しても人手不足になる保障はありません。しかし、「人口に占める生産年齢が低下するのだから労働力が不足する」と言う文章ももっともな気がします。

問題は、労働力が何に対して不足するのかが曖昧な点です。通常、労働力不足という言葉を使うと、自動的に「労働需要に対して労働供給が不足する」と連想します。だから失業率が下がるはずだと。でも、今の日本が迎えている労働不足は、労働需給とは全く別の現象。あくまで「高齢者の人口に対して生産年齢人口が不足する」ことです。言葉を変えれば、「増大する高齢者が必要とする年金・医療・介護などの財源(税収+社会保険料収入)を、人数が少ない生産年齢人口が払いきれない」こと。一言で言えば「労働力不足社会=財源力不足社会」です。

こう考えれば、労働力不足社会とやらがいつになったら来るのかがわかります。もう、とっくに来ていますから。

高齢者に対して今までと同じ給付条件を続けたまま、労働者に対して今までと同じ税・社会保険料率では、収支が合わず財政が破たんする。これが日本の労働力不足社会であり、その状況は年々悪化しています。

1970年の65歳以上の高齢人口は740万人、対して15-64歳人口は7200万人。現役9.8人で老人1人を支えていました。だからその時点では余裕があった。2009年の高齢人口は2900万人、15-64歳人口は8150万人。現役2.8人対老人1人になります。ですから、年金も高齢者医療も介護も財源不足に陥っています。これこそ労働力=財源力不足です。
もし、今も高齢人口の9.8倍の現役人口がいたらどうでしょう。15-64歳人口が2億8500万人です。いやもう、日本の国土が狭過ぎてパンクするという話は置いておいて、それだけの人口がいれば年金保険料も十分確保できるでしょう。
「今でさえ就業者数は6200万人余りで失業率が4.6%もある。だから人口があと2億も増えたら増加分は全員失業して失業率が78%くらいになる。」ということにはなりません。人口が2億増えれば(国土のスペースの問題を無視すれば)、2億人分の衣食住の需要が生じ、スーパー、コンビニ、ファミレス、UNIQLO、携帯スマホ、家電、運輸交通、アパート、光熱、etcの需要が発生し、雇用も生まれます。失業率は上がるかもしれませんが、増加分が全失業にはなりません。
従って、この逆もあります。日本はこのままなら生産年齢人口だけでなく全人口も減少します。中位推計では2050年に日本の人口は約9500万人になるそうですが、様々な需要も減少し必要な人手も減るので、現状比3000万人人口が減っても失業の無い人手不足社会になるとは限りません。たとえ総人口が100万人になっても、人口98万人の北九州市に失業者がいるように、ミニ日本は高失業国家かもしれません。
労働需給のタイトさという意味での労働力不足は、日本の歴史が示すように圧倒的に経済成長率によって決まるものであり、その前にあっては人口に占める生産年齢人口の比率というのは弱い変動要因に過ぎないように思えます。他方、財源不足という意味での労働力不足については、逆に、人口比率がかなり大きな決定要因であるように思えます。

かつて、スタグフレーションという現象がありました。不況なのに高インフレが継続していると言う、経済学的には矛盾しているはずの状態が同居する苦しい状況です。
今の日本は、人口政策の失敗によって「労働力不足(財源不足)」でありつつ、成長政策の失敗によって「高失業(労働供給過剰・労働需要不足)」でもある、という状況です。



*1:現実には、15-18歳は今では通常働いている年齢とは言えなくなっていますが、ここでは慣例的な年齢区分に従います