水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

原子力発電と国債の双子度

原子力発電はコストが安い、と電力会社や経産省はアピールしています。他の発電方法と比較すると、火力7-8円、水力8-13円、太陽光49円に比べ原子力は1kWhあたり5-6円。

2010年版・エネルギー白書・概要p10から引用しました。

原子力発電を多用するほど平均発電コストは下がり、国民の電気代負担も安く産業のコスト競争力も上がることになります。でも、それはウソだと主張する人もいます。経産省らが出している数字は実際の費用を反映していないと。例えば、迷惑施設を受け入れてもらう見返りに、原発周辺の自治体へは交付金など巨額のお金が流れています。こうした電気代に含まれていないが税などの形で国民負担となっているコストが入っていない。もちろん、今回のように深刻な事故が生じた場合の補償金も未計上です。
更に大きな隠れコストとして、バックエンドコストと呼ばれる放射性廃棄物の処理や廃炉に係る将来費用の問題が挙げられています。原発を燃やすほど積み上がっていく使用済み燃料やその他の放射性廃棄物をどこにどう処分するのか決まっておらず、どれだけコストがかかるかホントのところ分かりません。反原発派の人たちは、この費用を考えれば原子力発電は実は全然割安ではないと唱えています。
もしそうなら、脱原発を進めれば私たちは得するはずですが、現実には原発を止めれば足元の石油・天然ガス輸入費が増して電気代は値上がりすると。国民の生活も圧迫され、産業も逃げ出すぞと言われています。

1)現在の電気代は、原発のコストを全てはカバーしていない。
2)先送りされている将来費用の深刻さは不明。
3)でも今脱原発をすると、確実に費用増になる。

これって、国債に似てますよね。

1)現在の税負担は、政府予算を全てはカバーしていない。
2)先送りされている900兆円以上の国債残高が生みだす将来費用の深刻さは不明。
3)でも今財政再建をすると、増税にせよ歳出削減にせよ確実に景気を悪化させる。

将来費用の不明さという共通点について考えてみます。
毎年巨額の国債を発行するおかげで、たった40兆円余りの税を払うだけで90兆円以上の金を私たちは使えています。今すぐ財政再建を始めないと、遠くない将来に日本もギリシャのようになるor強烈なインフレになるという意見もあれば、楽観論もあります。個人の借金と国の借金は違う、国債の95%を国内消化している日本はギリシャと違う。10兆でも100兆でも国債を刷って日銀に引き受けさせればデフレが解消されてむしろ景気が良くなると言う意見さえあります。
電気事業連合会のHPによると、高レベル放射性廃棄物の処分費用は、「再処理にともなって発生するその他の廃棄物の処理・貯蔵・処分費用を含めても、原子力発電の発電コストの約3%とされています。」とあり、微々たるものです。しかし、穴掘って埋めるだけで費用も微々たるものなのに、穴掘る場所が一向に決まらないのが現実です。今回のフクシマ事故で生じた被曝ガレキすら処分できないのに、「高レベル放射性廃棄物は、強い放射線を出し、その放射能レベルが十分低くなるまでには非常に長い時間がかかります。そのため、数万年以上にわたり人間の生活環境から遠ざけ、管理する必要があります。」なんて、どこの自治体にどれだけの交付金を積めば引き受け手が出るのでしょう?。
日本だけでなく、世界で見ても「処分場は将来できる予定」という言葉が並んでいます。

これは、日本だけでなく世界もまた(程度の差はあれ)将来費用を先送りして誤魔化しているという事なのかもしれません。どのくらい大きな実現コストがかかるのかはまだわかりません。円だけでなく、ドルやユーロもまたデフォルトリスクの瀬戸際にある、という点と似ているように思えます。

脱原発(脱国債)のコストについて考えます。
今、脱原発をすれば化石燃料費によって電気代が上がる。産業界は耐え切れずに日本を出ていくと脅されています。でもこれは、遅かれ早かれ産業界は日本を出ていくと言う事かも知れません。いずれ将来、放射性廃棄物処理の先送りが限界に来れば、バックエンド費用を電気代か税金かで徴収せざるをえず、その額が発電コストの3%で済まなかった場合には「過去発電分の処理費用まで負担させられるなんて耐えられない」と言って、産業界は出ていくのでしょう。中国やベトナム原発は最近稼働したばかりかこれから稼働する所なので、まだまだバックエンド費は先送りできるので、当面は安い電気代を享受できます。そこに生産拠点を移し、そして、数十年後にそこでの先送りが限界に来れば、またその時点での新々工業国(南アジアかアフリカあたり?)に渡り鳥のように移動すればいいのです。
今、「確実に」産業界が日本を出ていく事の方が国民にとって苦痛なのか?。それとも、将来想像以上のバックエンド費用を負担せねばならなくなった「場合に」同じタイミングで産業界まで出ていく二重苦に喘ぐ「可能性」の方が苦痛なのか?。難しい問題です。

同様に、今財政再建をする方が「確実に」苦痛なのか、野放図な国債発行を放置して財政が破たんしてしまった「場合に」受ける「可能性」がある財政再建コストの苦痛の方が大きいのか?。難しい問題です。

何となく、財政の限界と、放射性廃棄物処理先送りの限界と、高齢化の限界と労働人口減少の限界と年金制度の限界と、産業界脱出の限界と、その辺諸々が同じタイミングで来そうな気がして怖いです。