水色あひるblog

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「更新料は有効」判決は大家さんを勇気づけてくれるか?

賃貸住宅の契約を更新する際に家主が借り手から「更新料」を取る契約は有効か、それとも無効か。最高裁第二小法廷(古田佑紀裁判長)は15日、更新料をめぐる3件の訴訟の上告審判決で「原則有効」とする初めての判断を示した。「更新料を取る契約は消費者の利益を不当に害している」と訴えた借り手側の敗訴が確定した。

http://www.asahi.com/national/update/0715/TKY201107150320.html

最高裁勝訴を受け、今後大家さんは大手を振って「更新料」を請求できます。では、今回の判決が大家さんの収益性を改善あるいは維持してくれるかと言えば、その効果はほとんどないように思います。

礼金・敷引き・更新料・ナンタラ・カンタラ、名称や費用請求の口実は色々違いますが、こうした家賃外家賃はいずれも同じ理由で増殖し定着してました。つまり「家が足りない」という大きな事実です。戦後、日本は人口自体も急増しましたし、地方農村から都市工業地帯へ大量の人口流入があったため、特に都市部ではアパートを建てても建てても追いつかない、常に部屋が足りない状況でした。
また、戦時中の1941年(昭和16年)に借地法に取り入れられた「正当事由」という足枷もありました。簡単に言えば、借家人を保護するため、賃借契約が満了しても余程の事情が無ければ大家は契約の更新を拒絶できないというものです。一旦不動産を借家として提供すると借家人に居座られてしまい、自分の不動産なのに必要な時に自分で使えないリスクが生じるため、不動産を賃貸借市場に供給するのをためらう効果が生じ、足りない借家の供給が法の影響でますます抑制されていました。

ともあれ、人口増+人口移動+古い法といった原因で借家の需要超過・供給不足が戦後なかなか解消されず、特に都市部では大家の力が圧倒的に強かったのです。借家人は「お願いします、部屋を貸して下さい。住まわせて下さい。」と土下座するしかなく、足元見られて礼金・敷引き・更新料・ナンタラ・カンタラを支払うのが当たり前になっていました。

しかし、戦後半世紀を超えて永遠に続くかと思われたパックス大家の時代に大きな変化の時が来ています。人口はもう増えません。それどころか2010年の日本の人口は12万3千人の減少。これからは人口が減り、住宅需要が減る時代です。他方、91年に借地借家法も改正されて定期借地権・定期借家契約など柔軟な契約が可能になり、借家供給を増大させています。

総務省統計局が出している住宅・土地統計調査をグラフ化してくれているサイトがありましたので、引用します。

90年代にバブル崩壊&法改正されて以降、空室率が上がっている事がわかります。部屋は、今、余っているのです。18.7%と言う数字は全国のもので、東京はいまも流入による人口増加が続いていますから相対的にはマシでしょうが、それでも、大きな時代の潮目が変わったことは確かでしょう。

もう、裁判所が判決で大家さんを守ってあげようとしても無理でしょう。需要が減少し、供給が過剰になれば価格が下がるのは経済の大原則です。
仮に更新料が否定されても、家賃が月10万円あれば大家の収入は2年間で10*12*2=240万円あります。他方、2年ごとに2か月分の更新料が有効だとされても家賃が月8万に下がれば、2年間の収入は(8*12*2)+(8*2)=208万円。32万円の減収です。敷引き・更新料・ナンタラといった項目を死守しても、総収入は下がっていくでしょう。むしろ更新料を請求すれば、借家人は更新料を取られない物件を選び、「判決は私が正しいと言ってくれた」と信じた大家は空室を抱えて損する羽目になるかもしれません。

敷金返還訴訟や更新料無効訴訟が頻発する事自体、大家さんの立場の悪化を如実に表しています。昔は、大家を相手に訴えるなんてしたら、もうどこにも住めなくなるかもしれず泣き寝入りするしかなかった。それが今は、世の中には空き室がゴマンとあり、更新料無しの物件だってあるという余裕があればこそ、「金返せ」と声に出せるようになったのです。

大家さん達は、裁判で防戦してもあまり意味は無いとそろそろ悟るべきでしょう。それよりも、根本的に住宅需要を増やせばかつての栄光を取り戻せるのです。
例えば、住宅ナンタラ公団とか都市ナンタラ機構みたいな特殊法人天下り官僚の利権の為に余分な住宅を供給して市場を荒らす止めろと主張したり、移民を入れて人口減少を止めろと主張したらどうでしょう。あなたの空室を、ベトナム人やフィリピン人が埋めてくれるかもしれません。