水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

東京と福島が戦争を始める日

池田信夫氏が、こんなことをつぶやいています。

ネット上の議論でも朝生でも、反原発派は劣勢。日本経済が成長していたころは「ロウソクでもいい」という反原発派がファッショナブルだったが、今は人々がまず生活水準の維持を考える。日本もようやく大人になりつつあるのだろう。

日本人が大人になったは感違いでしょう。朝生で原発容認派が大勢だったのは、出席者がみんな東京民=原発の受益者=計画停電にうんざり民だったためです。ホリエモン氏が、自身は六本木ヒルズに住んでいて停電とは無縁なのに、節電を求められているだけでも不満で、どうすれば計画停電をなくせるのか猛烈な勢いで東電からの出席者に質問をぶつけていたのがその象徴です。福島県民12人をスタジオに呼んで番組を作れば、違った意見になったでしょう。ネット上の議論も、原発を容認する「現実的」意見の背景に東京民が大勢いるのは確実です。
朝日新聞に、福島第二原子力発電所で働く女性社員が東電本社の幹部に送った、現場の状況を伝える電子メールの内容が紹介されています。

「1F(福島第一原発)、2F(第二原発)に働く所員の大半は地元の住民で、みんな被災者です。家を流された社員も大勢います。私自身、地震発生以来、緊急時対策本部に缶詰めになっています。個人的には、実家が(福島県浪江町の海沿いにあるため、津波で町全体が流されました」
「実家の両親は津波に流され未(いま)だに行方がわかりません。本当なら、すぐにでも飛んでいきたい。でも、退避指示が出ている区域で立ち入ることすらできません。自衛隊も捜索活動に行ってくれません。こんな精神状態の中での過酷な労働。もう限界です」

http://www.asahi.com/national/update/0326/TKY201103260360.html

生産した電力は原発の受益者たる東京民が享楽的な生活を送ることに消費され、事故が起きれば恐怖も痛みも押し付けられるのは原発の負担者=立地側の住民です。避難指示のために両親の行方さえ探せない時に、東京民は計画停電の仕方が不公平だと文句をつけているのが現実。これで、東京民が新たな原発が必要だと言ったところで、次の原発立地を誰が引き受けるでしょうか?。

過去、スリーマイルやチェルノブイリの際に生じた原発を巡る議論は、しょせん「自分は被害者じゃない」かつ「必要な電力は確保されている」状況で、対岸の火事を眺める立場での贅沢な議論でした。今度は、リアルな被害者と受益者の双方が国内にいるため、その対立は先鋭化するでしょう。
東京民は今の計画停電でさえ不満タラタラですから、夏のもっと深刻な停電に耐えられるはずもなく、東電には「グダグダ言ってないで、さっさと新しい発電所を建てろやゴラァ」というクレームが殺到します。他方、原発立地を打診された側はどうなるか?。これまでも原発は迷惑施設でしたが、地元自治体に巨額の交付金を出し、政治家にワイロを与え、土建屋事業を発注すれば、なんとか地元住民の政治的合意を得られてきました。でも、福島の悲劇を見てしまった以上、もうそんな「はした金」では無理でしょう。原発周辺住民全員に直接給付金を支払い、要するに周辺の住民は全員一生働かなくても遊んで暮らせる程度の金を出し続けなければ了解は得られないでしょう。もちろん金では流されない住民も多いので、どれだけ金を積んでも多数派工作は不可能かもしれませんし、可能な場合も、地元住民同士で悲劇的な溝というか対立が生じるのは必至です。また、どこまでが「周辺」か=どこまでの住人に金を出すのかを巡り際限ない拡大要求が繰り返されるでしょう。
そうなると、金がかかり過ぎてコストが合わなくなる恐れがあります。東京民は国会を動かし、土地の強制収用など地元民を無視して建設を強行できる法整備を進めるかもしれません。果ては成田空港・三里塚闘争の二の舞、東京民が送り込んだ国家権力=機動隊と地元民が流血の惨事を繰り広げるかもしれません。東京と福島が(あるいは新潟が)争乱状態になるのです。

解決策はあるでしょうか?。
一つは「電力供給の大幅な回復を諦める」というもので、これは東京圏の経済活動を電力供給の範囲まで下げる=企業や人が他の地域に転出し、東京圏GDPを縮小させると言うことになります。電力供給が確保できる地域に経済活動を分散・平準化させる、地理的オフピーク=オフ東京です。二つ目は、火力など原発以外の発電方法だけで供給能力を回復する事。これが一番現実的かもしれません。三つ目は、「東京圏原発を立地させる」でしょう。これは無理だと言う人もいます。が、東電管轄地域=計画停電の対象地域は、電気が足りなくて困っているのですから原発の必要性について了解が得られやすい側面はあります。元々、他人の敷地に原発と言う迷惑施設を押し付けてきたのが無理があったので、受益者負担の原則に戻るのです。さすがに東京湾内は無理でしょうから、千葉房総の太平洋側とか静岡とかになるでしょうか。そこなら、原発受け入れで自身の停電もなくなるのですから、福島や新潟に建てるよりも安い給付金で済むはずです。