水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

ピルと専業主婦

地方に公共事業予算をばら撒く時に、利権と票を確保するための政策だと正直に説明するバカはいません。そこには「地方経済の活性化」「東京と地方の格差是正」と言った美名が冠せられます。税制や社会保険制度に見られる専業主婦優遇策も、タテマエは「内助の功に報いる」とか「主婦の家庭での働きを評価する」といった、あたかも女性に優しい政策であるかのような説明が行われます。しかし、同じ女性が働いていると家事や育児をしていても税と社会保険料を取りたてるのですから、これは家事労働を評価しているのでも女性を保護しているのでもなく、女性の中に差別を作る政策。保守的な政治家にとって好ましい女性像=社会で男と競ったりせず家庭に収まるつつましくしとやか(?)な女性になるよう誘導している政策に他なりません。
先日、フランスの取り組みの差を見て、日本の男女差別の原因は高度成長期にあると言うエントリーを書きました。実は、かつてフランスにも専業主婦優遇策がありました。1930年代に保守派とカトリックの「女性は工場より家庭にいるべき」との主張で「専業主婦奨励基金」なるものが登場。1938年には家族法典内に「専業主婦手当」が登場。妻が専業主婦の場合、末子が14歳になるまで夫に一定の上乗せ給与が支給されていました。この制度は1972年に廃止されました。日本では今でも年金の第3号被保険者のような政府の施策、大手企業の一部が正社員に支給している家族手当が差別を続けています。

先日は、もう一つ女性差別の例として低用量ピル解禁(仏1967年VS日本1999年)を挙げました。ピルがずっと禁止されていた理由は「ピルには副作用があるから」という事が言われていました。「女性の為を思えばこそピルを解禁しないのですよ」という話になっていますが、ウソです。開発世代が上がるにつれピルの副作用は大幅に軽減されていたと言う側面もありますが、根本は副作用の有無ではありません。
仮にピルに一定の副作用があるとして、ピルを飲めば副作用のリスクがあり、飲まなければリスクはないでしょうか?。いいえ、リスクはあります。ピルを飲まないリスクは「望まない妊娠をするリスク」であり、「中絶手術という重大な精神的肉体的苦痛を受けるリスク」です。
どちらが自分にとってマシなリスクか考え、どちらを選択するかを決めるのは当然女性一人ひとりであるべきです。
ピルの認可とは、「薬の副作用のリスクを選ぶか」「望まない妊娠・中絶手術のリスクを選ぶか」の決定権を女性が持つ、ということであり、認可しないのは「女性に選択する権利は無く、全女性が妊娠・中絶のリスクを受け入れるように強制される」ことなのです。
日本では、コンドームは1948年に優生保護法が施行された時代から避妊具として広まっていました。コンドームの活用とピルの禁止はつまり、「子どもを作るか作らないかという重大な決定は、男がする」という思想です。コンドームを着けるか着けないかは、最終的には男の行動次第です。女はその決定に従うしかなく、男の意思に反して自ら妊娠を回避する能力は与えられないのです。もちろん、コンドームが悪い訳ではありません。避妊の他に性感染症予防にもなりますしね。それでも、コンドームがより望ましい方法であっても、ピルを認めない(認可を遅らせてきた)正当な理由にはならないと思います。

また、民法が定める婚姻適齢(731条)が男性は18歳以上・女性は16歳以上となっているのも、同じく男性中心の思想が伺えます。男女で2歳の差が設定されている理由について、法務省は「これまでは女性の方が心身の成熟が早く、低年齢での婚姻・出産があることを考慮して、男女差が設けられてきた」とし、これを男女とも18歳にするよう答申しています。年齢を揃えるのは良いと思いますが、過去についての説明はウソ臭いと言わざるを得ません。
女性の心身の成熟が基準なら、明治民法から戦後民法への変更に際して適齢を15歳から1歳引き上げる理由がわかりません。栄養状態などを考えても、戦後の女性が明治より成熟が遅くなっているとは思えません。それに、女性の方が二次性徴が数年早いのは事実としても、射精できれば事足りる男性より妊娠出産を担う女性の方が幼い年齢で必要な成熟に達するというのは随分不思議な話です。
これは、まず男性の婚姻適齢ありきで、男性より女性の方が若い結婚が多数派なので、例えば男性が17歳なら女性は15歳、男性が18歳なら女性は16歳と、男性より少し若い年齢から結婚を認めないと若い男性が結婚する際に不都合だというのが真相でしょう。

日本の女性は、こうした「女性に配慮しているフリして実は差別」という制度に、もう少し強く反発の声を上げるべきではいかと思います。