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水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

できちゃった結婚を後押しするもの

できちゃった結婚が増えています。厚生労働省の資料*1を見ると、

[2] 母の年齢階級別にみた結婚期間が妊娠期間より短い出生
結婚期間が妊娠期間より短い出生の嫡出第1子出生に占める割合を母の年齢階級別にみると、平成21年には「15〜19歳」で8割、「20〜24歳」で6割、「25〜29歳」で2割、30歳以降で1割となっており、年齢層が若くなるほど高くなっている。概ね各年齢層で増加傾向で推移してきたが、近年はほぼ横ばいで推移している。(図11)(文章一部略。図11は下に掲示)

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/syussyo06/syussyo2.html#02

と書かれています。6割8割というのはスゴイ数字です。でもこれを、イマドキの若者の道徳観念の低下だの、だらしなさに原因を求めるのは見当違いだと思います。できちゃった結婚することが合理的な社会になったから増えた。逆に言えば、出来る前に結婚する動機が消失したことが原因だと思います。

高度成長期の男は正社員・女は専業主婦モデルの社会では、女は常に扶養家族でした。彼氏と交際している花嫁修業期間中は父親の扶養家族で、結婚すると夫の扶養家族に移ります。露悪的な言い方をすれば、婚姻届の提出は所有権の移転手続きです。
そして、「出来る前」に婚姻届を提出する動機が多数ありました。終身雇用正社員の世界では、結婚すると家族手当が支給され、独身寮を出れば住宅手当支給か又は格安家賃の家族用社宅の提供が受けられました。婚姻届を出せば収入が増える訳ですから、子供が出来るまで待つのは馬鹿げています。
上司に仲人を依頼することで部下を持つ管理職の自尊心を充足させてあげられ、かつ「お前も結婚して一人前になったな」と評価してもらえます。「結婚して一人前」というのはキレイ事ではありません。転職市場が未発達な終身雇用社会では、扶養家族である妻を持てば、いよいよ中途退職は超ハイリスクな不可能事になります。婚姻届は「定年まで会社に忠誠を尽くします」という社畜宣誓書でもあります。宣誓書の提出と引き換えに、昇給昇進評価の向上を与えられるのです。出世の可能性が上がるなら結婚するのは早いに越したことは無く、出来るまで待つ意味はありません。
更に、配偶者の年収が103万円以下であれば配偶者特別控除という税制上の優遇も得られていました。婚姻届を出せば税金が減って手取り収入が増える訳ですから、出来るま(以下略)。
高度成長期の男女は道徳的だったのではなく、自分達が得するように合理的に行動しただけです。

今の若者は違います。低賃金の非正規雇用には家族手当も住宅手当も格安家賃の家族用社宅もありません。派遣会社に「結婚します」と報告した所で、「仲人は俺に任せろ」と担当者が言ってくる訳でもなく、憶えが目出度くなる訳でもなく、昇給も昇進もありません。自分が生きていくだけで精一杯の賃金しか得られていないのに、「妻を無職か極超低収入にすれば税制上優遇してあげるよ」と言うのは嫌がらせでしかありません。
出来る前に婚姻届を提出するメリットがどこにもないから提出しないのです。

調べた訳ではありませんが、今でも家族手当や終身雇用といった古典的雇用慣行を継続できている勝ち組企業の正社員(男)は、今でも伝統的な出来る前結婚を遂行している率が高いのではないかと推測します。再び露悪的な言い方をしますが、そうした勝ち組正社員(男)ができちゃった結婚するのは、何らかの失敗か、または「くそっ、嵌められた」的な事情が関係しているかもしれません。「妊娠したのに責任を取ってくれない」などという情報を流された日には、失うものが大きすぎますからね。

本題に戻って、では何故イマドキの若者も、できちゃったら婚姻届を出すのでしょう。子供の父親=子供の扶養義務を明確化する意味ももちろんありますが、それだけではありません。日本では子育てと仕事を両立するのが困難ですから、子供ができると母親も扶養家族に転落します。女性からすれば、子供の前にまず自分を扶養するのが誰か明確にしなければ生存が脅かされます。そこで、一気に婚姻届を出す動機と言うか必要性が女の側に生じます。男の側も我が子や彼女への愛情があれば同意するでしょう。
つまり「非正規雇用(正社員との処遇格差)」と「育児・就業の両立困難」のコンボが、出来てから婚姻届を出す理由であり、後者は昔からなので、前者の増加ができちゃった婚加速の原動力となっているのです。

と言う訳で、下に二つのグラフを並べてみました。

左は前掲の「母の年齢階級別にみた結婚期間が妊娠期間より短い出生の割合(図11)、右は男性の年齢階級別にみた非正規雇用比率で、期間は共に1995年から2009年までです*2
年齢階級の分け方が違うのが難点ですが、グラフの形状は似ていると思いませんか?。24歳以下については90年代後半に比率が上昇し、2000年代に入って以降は横這いに近づいています。他方25歳以上については、2000年以前も以降もジワジワと上昇しています。

こうして見れば、男が草食化する(恋愛に消極的になる)のも自然です。夫になると、同時に妻子二人を扶養する責任が生じますが、非正規雇用でこれは過酷な話です。子供が出来てしまうリスクから逃げるために、セックスあるいは恋愛すること自体を回避するのは合理的です。
他方、女が肉食化する(恋愛に積極的になる)のも自然です。とりわけ子供が欲しいと思っている場合は、少なくとも一定期間一人の稼ぎで親子三人が生活できる男と恋愛関係になる必要があり、その条件を満たす男の数(比率)が減少しているのですから、就活で正社員の座を狙うのと同様に婚活でも最大限の努力をする必要が生じます。

では企業に正社員・終身雇用を強要して賃金水準を引き上げれば、男は再び恋愛に貪欲になって古き良き「出来る前結婚」の復活や出生率の向上が達成されるでしょうか?。むしろそれは失業の増加や企業の倒産・海外流失を招いて、(できちゃったと出来る前を合わせた)婚姻率や出生率のさらなる低下を招くでしょう。
現実的な施策として、働きながら子育てができる環境を整え、年収250万と250万同士でも子供を持つことが可能になれば、出生率は向上するでしょう。ただその場合、フランスなど欧州諸国で見られるように「出来ちゃっても結婚しない(事実婚ではあるが婚姻届は出さない)」カップルが増加し、保守派の更なるイライラを招くかもしれません。

*1:平成22年度「出生に関する統計」の概況

*2:統計局・平成21年労働力調査年報から作成。II−D−第1表のsheet2(男)、H列(正規の職員・従業員)とI列(非正規の職員・従業員)の和に占めるI列の比率。1995-2001年までは各年2月の値で2002年以降は各年の年平均値。