水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

間接マネタリズム・直接クラウディングアウト

国際決済銀行(BIS)は10日、スイス北西部バーゼル中央銀行総裁会議を開き、新興国にインフレの脅威が台頭していることから、新興国への資本流入を制御することが極めて重要との認識で一致した。

http://mainichi.jp/select/world/news/20110111ddm008020108000c.html

日銀やFRB量的緩和を含む金融緩和を重ねても、資金需要がない中ではマネーストックは増えず、従って物価上昇も起こらない。金を撒きさえすれば物価は上がるとするリフレ派は間違えている…はずでした。でも、目下の世界経済は微妙にリフレ派的状況を起こしています。
先進国の金融緩和が先進国の物価を上げなくても、余った金は投機マネーと化して世界を巡り、石油や鉄鉱石など資源価格を騰貴させ、砂糖・小麦などのコモディティ相場を騰貴させ、次いで新興国のインフレに燃料を投下しています。最終的には、資源価格の騰貴&新興国のインフレが輸入物価の上昇となって、マネーの湧水地である先進国にインフレを還流させるかもしれません。かつては一国の金融政策が一国の貨幣数量を決めて一国の物価を決めていたものが、今は世界の貨幣数量の総和が世界の物価を決めている訳で、金融政策が間接的にしか自国に影響を与えられない、と見ることも出来ます。
そうは言っても、日銀やFRB新興国のインフレ状況を見て金融政策を調整する=自国でのインフレ率がまだまだ控えめなのに、新興国では亢進しているから金利を引き上げるとか、というのは難しいでしょう。
先進各国の中央銀行やら金融当局のエライ人達がどんな対応をするのか、興味深いところです。

銀行に集まった預金が企業などへの融資に回らない。全国銀行協会によると2010年末の預金残高が564兆円に達する一方、貸出残高は416兆円と2年連続で減少。預金残高と貸出残高との差は150兆円近くと過去最大になった。(中略)
銀行は融資に回らない資金国債投資に振り向け、昨年11月末の保有残高(日銀調べ)は142兆円まで拡大。(中略)
銀行は国内の停滞を受けてアジアなど新興国向けの貸し出しを強化している。ただ邦銀の海外支店の貸出残高は25兆円と規模はまだ小さい。

http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819591E3E3E2E3E58DE3E3E2E3E0E2E3E39F9FEAE2E2E2;at=DGXZZO0195164008122009000000;au=DGXZZO0195684008122009000000

クラウディングアウトは、「行政府が資金需要をまかなうために大量の国債を発行すると、それによって市中の金利が上昇するため、民間の資金需要が抑制されること(by wikipedia)」とあります。ゼロ金利が続いている日本ではクラウディングアウトは起きないはずですが、この記事を見ると金利変動を介さず、もっと直接的に民間への融資が追い出されていると感じます。
本来なら銀行は、150兆円もの金が融資先が無く余っていると預金者に利息が払えなくなるため、起業を支援するなりベンチャー相手のミドルリスクミドルリターンな融資方法を考えるなり、あるいは土地を転がしてみるなり、何とか民間の資金需要を創出させようと努力するはずです。それが、国が無尽蔵に国債を発行するため、0.02%の預金金利で集めた金が余ればとりあえず1%ほど利息の入る国債を買っておけばいいやという安易な運用を可能にし、金融機関としての努力を放棄してしまっています。金融機関は最も大きな収益を生み出せる企業・部門に金を貸すことで「金を活かす」べきなのに、最も効率の低い部門(国)に貸し込み続けています。
将来いつか日本経済が活力を取り戻した場合、民間企業の資金需要増加に応えるために銀行は国債を売って融資資金を確保することとなり、そうなると国債金利が上昇するので本物のクラウディングアウトが生じることになります。記事に書かれている「アジア新興国向け貸し出し」が拡大しても同じ事が起きます。
金利上昇による本物のクラウディングアウトが生じると、民間の投資を抑圧して成長機会を潰すことになるうえに、900兆円の国債残高から生じる利払い費がどんどん重くなって財政破綻の危機に直面する事になります。
このままずっと民間の資金需要が無い日本経済というのも沈没するでしょうし、でも資金需要が増えれば増えたで財政は破綻するし…。出口はどこかにあるのでしょうか?。