水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

PISAテストで日本が韓国とか香港とかに勝てない理由

PISAテストネタ二回目です(苦笑)。前回は上海が断トツでトップを独占したモチベーションについて妄想しましたが、今回はかねてより日本を見下ろす高成績を出してきたアジア優秀国・地域と日本の差について、データを使って考えました。

左グラフ(1)は読解力テストの成績を点数で優等生・普通・落ちこぼれに三分割し、それぞれに何%の生徒が入るかを示したものです。*1ちなみに国名の右の(n)は順位。フィン(3)は3位・フィンランド、シンガ(5)は5位・シンガポールの意味です。
これを見ると、8位・日本の優等生比率は13.4%と、2位・韓国(12.9%)や4位・香港(12.4%)を上回っています。にもかかわらず平均点で負けている原因は、普通の生徒の比率が低く、落ちこぼれの比率が高い事です。優等生の人数では1ポイント程度多くても、普通の生徒数が韓国・香港に比べ6-8ポイント少なく、落ちこぼれは逆に5-8ポイント多い。これが敗因です。
仏の成績はOECDの平均付近でアジア諸国より下の方にいますので、失礼ながら対照として取り上げました。仏を見ても、順位の低い国は落ちこぼれの多さが平均点を引き下げている事がわかります。

右グラフ(2)は読解力について順位別の点数を示しています。*2縦軸が点数、横軸は右端の「5」というのが、「成績トップから5%の順位の生徒の得点」の意味で、以下順に「上位10%の生徒」「上位25%」「ave=平均点」「上位75%=下位から25%」「下位10%」「最下位から5%」です。
最上位5%を見ると、8位・日本(667点)に対して5位・シンガポール(676点)は僅かに上、2位・韓国(658点)は日本より下です。仏でさえ(失礼)僅差。それに続く上位10%・25%の成績もかなりの団子状態で、つまり平均より上の生徒の成績には大差がない事が分かります。それが、下位10%の生徒では日韓で50点差、最下位5%では60点差とどんどん悪くなっています。仏はもっとスコアが低くて、これが平均点=国別順位を押し下げています。
韓国が2位に輝いて日本が8位に沈む差は、韓国の優等生が頭いいのでなく(優等生の成績は日本の方が高い)、落ちこぼれを出さず多くの生徒を「そこそこ」の成績に収めている差。日本の教育の到達点が低いのでなく、ドロップアウトを防げていない差なのです。

【結論】もし日本がPISAテストで韓国やら香港やらに勝ちたいなら、必要なのは「教科書を難しくして優等生をもっと優秀にすること」ではなく、「基礎レベルについていけない落ちこぼれをいかに減らすか。平均以下の生徒の成績をいかに底上げするか」なのです。

ゆとり教育のせいでPISAテストの順位が下がったと批判している人たちの多くは、PISAテストを見た事が無いのだと思います。毎日新聞にPISA2009の読解の問題例が出ています。見た方は分かると思いますが、別にエリート進学高校の入試問題みたいな難問は出てない訳なんです。
これは憶測ですが、教科書が「ゆとり」レベルのシロモノでも、生徒全員がそれを消化できていれば韓国・香港あたりとの差は埋まるはずです。逆に、たとえ教科書を世界一ハイレベルにしても、ドロップアウトを防がなければ日本の成績は上がらないでしょう。

上海の成績だけは、少し様相と言うかレベルが違う感じですね。まぁ、これは色々な要因があるのでしょう。
科学と数学については、後編で。

あと、以前書いた関連するエントリー→子供たちは、分厚くなった教科書をいつ勉強するのだろう

*1:p.194のTable I.2.1を参照。優等生はLevel 6&5、普通はLevel 4&3&2、落ちこぼれはLevel 1a&1b&below1b の各値を合計したもの。

*2:p.197のTable I.2.3の右半分「Percentiles」を参照。平均については左端の「Mean score」を参照。OECDの表では、下位から順に5th、10th、25thとなっています。不思議だ。