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水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

金融政策は生きているのか?

景気が悪い時に金利を引き下げると、貯金している主体から借金している主体に所得を移転する効果があります。家計は総体として貯蓄していますが、本来受け取れるはずだった利息を返上します。他方、企業は総体として融資を受けて事業を行っていますが、本来払うはずだった利息を減免されます。家計でも、住宅ローンを組んだ場合は支払利息が減って得します。銀行を通じて貸し手から借り手に金が流れ、貯金するより借金してでも金を使う方が得だとなって景気が回復する…はず、となります。しかし日本では、この流れが機能していません。

上記のグラフは国民経済計算から拾った*1、ストックで見た1990〜2008年の金融資産・負債残高の推移です。
例えば2008年の家計(緑の実線)はグラフで大体+1000兆円になっていますが、これは1400兆円強の資産から約380兆円の負債(緑の点線)を差し引いて1027兆円の資産超過という意味です。
これで見ると、家計は90年以降金利が低下して99年以降ゼロ金利になっても、負債を増やすことなく貯金し続けています。ひたすら利息を返上して損をしています。問題は、企業(非金融法人企業・青線)です。低金利を活用して投資を増やして欲しいのですが、負債を顕著に増やしたのは99年(ITバブルのピーク)と2005・6年(サブプライムバブルのピーク)だけ。傾向としてはグラフは徐々に右上がり。つまり負債を減らして年々のフローで言えば貸付超過側に回っています。
では、家計が利息を返上して貢いでいる相手は誰なのか?。それが政府(赤線)です。赤線だけがどんどん右下がりで金を借り続けており、2008年を見ると約500兆円の負債超過。2007年から企業部門を抜いています。家計も企業も刺激されず、最も非効率な部門資金を吸い上げ続けて、粗負債は今や1000兆円。これは憂慮すべき事態です。

ゼロ金利の弊害を考えてみます。
○家計部門は、巨額の利子収入を失っています。1000兆円に2%の預金利息がつけば*2金利収入は年20兆円。99年以降の10年で200兆円の返上です。
○企業部門は、新陳代謝が阻害されます。利率があれば倒産したであろう、ゼロ金利だから生きているゾンビ企業の退出が損なわれます。企業倒産は短期的にはマイナスですが、長期では廃業起業が回転することで高効率な企業に集約されるはずの人・モノ・金が非効率に放置されることになります。
○政府部門は、放漫財政が放置されます。まともな金利があれば、例えば3%なら政府は1000兆円の負債に対して年30兆円の利払い費を負う事になります。税収40兆円の国で借金の利息が30兆円というのはあり得ませんから、遥か以前に国債の積み上げは不可能になり、財政再建せざるを得なかったはずです。長期のゼロ金利が過剰な負債積み上げを可能にし、それが将来の破綻リスクを過大な物にしています。
政府の立場からは、民需が足りないから財政支出で穴埋めしているのだ=政府の負債は結果だとの言い分もあるでしょう。が反面、政府が負債を積み上げるほど将来の増税や年金制度崩壊リスクが高まっているので、家計は必死に破綻に備えて金を積んでいる=政府の過剰な負債こそが不況の原因のようにも見えます。

○もう一つ、金融機関の機能麻痺またはクラウディングアウトが起きている気がします。クラウディングアウトは通常、意図せざる金利上昇で民間投資を阻害する事ですから、ゼロ金利が継続している現在には不適切な言葉です。が、金利は上がっていなくても、毎年30兆40兆円の資金が政府に吸い取られている事に変わりはありません。
銀行は今、0.02%という極超低金利で預金を受け入れ、その金で国債を買えば1%程度金利がつくので採算が取れると言う、あまりに安易な商売をしています。これは、国債が大量に発行されるからできる技です。国債が少なければ銀行は有り余る預金の運用に困り、何か融資できるもの、利息の取れるものを探したか生みだしたはずです。もしかすると、銀行がインキュベーターのように起業支援をしたかもしれませんし、最悪でも土地転がしで資産価格を上げる位のことはしたでしょう。国債の存在が、金融機関が努力する機会を奪っています。

財政政策はかつて、「景気が悪いのは需要が不足しているのが原因で、不足分を財政政策で埋めればいいじゃん。」と期待された時代がありましたが、やがて「財政出動しても、それは後の増税でチャラになるじゃん。無意味じゃん。」「ぐぬぬ…。」ということで、打ち出の小槌じゃないことが発覚してしまいました。
金融政策は現在、ゼロ金利の罠に陥って「効果が得られない」状態にあると言われていますが、実は効果が無いだけでなく、長期間ゼロ金利を続けるのは、長期間財政赤字を続けるのと同様に、実は大変マズイことなのではないかという気がします。*3

*1:平成20年度国民経済計算(平成12年基準・93SNA)→第2部ストック編→3.付表→(6)金融資産・負債の残高→1.総括表→負債残高

*2:資産1400兆円が受ける利率と負債400兆円が払う利率が違うので、正確ではないでしょうが。

*3:余談ですが、家計の資産超過額が2007年以降減少しています。でも負債は増えていません。これって、団塊世代の引退でいよいよ資産の取り崩しが始まったということでしょうか。だとすると、この先誰が国債を買い支えるのか、恐怖を感じるグラフです。