水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

じゃあ、どうすれば円高にならなかったのか

円高が日本経済を破滅させる、かどうかはわかりませんが、現在の円高状況を回避する方策はなかったのかを考えてみます。
グラフ(上)は、2000年年初を100とした主要通貨の対円レートを示したものです。*1ラインが上に行くほど各国通貨高=円安、下に行くほど各国通貨安=円高です。2005年以前の米ドル(赤線)が無いのは中国人民元が対ドル固定制だったためで、2000年〜2005年途中までについては緑線が米ドルと人民元を兼ねています。
グラフ(下)は同期間の各国の政策金利です。*2

グラフ(上)を見ると、2000年以降という期間で見る限り、円は2001年以降各通貨に対して円安に振れていて、それが2008年以降元の水準まで巻き戻しています。この10年を一言でいえば「行って来い」です。米ドルと韓国ウォンに対して直近20%ほど円高ですが、決してずっと一方的に円高が進行して苦しめられてきたわけではないことがわかります。
為替レートを決める要因は色々あるでしょうが、上下二つのグラフを見比べると各国の政策金利と為替レートの間にある程度の連関が見てとれます。特に表示期間の後半、2005年頃以降サブプライムバブルが膨張し世界が好景気になる過程で各国は段階的に金利を上げ、それに連れて各国通貨高=円安が進行。2008年以降サブプライムバブル崩壊リーマンショックの局面で各国は急激に金利を下げており、それと同時に一気に円高が進行しています。
日本の政策金利は期間中ずーっと底這いの極超低金利が続いていますから、金利差が開くにつれて円安進行、金利差が一気に消滅して円高と言う、かなり分かりやすい関係です。

というわけで、どうすれば現在の円高を回避出来たかと言えば、2005-2007年に日本も金利を上げればよかったのです。
「そんなことできるわけがない」という意見が多いと思います。デフレが十分終息していなかったのに金利を上げれば景気の悪化を招いたはずだと。でも、2007年頃の日本は「世界経済の好調」に「円安」を上乗せした二重メリットを享受した結果、90年バブル時代を超える最高益を出す企業が続出していました。グラフ(上)の2007年を見ると、ドルに対しては15%程度の円安に過ぎませんが、ユーロに対しては50%以上、韓国ウォンに対しても40%以上の円安となっています。競争上有利で利益が出やすい好都合な状況にあったことが分かります。「史上最高益を出す企業が続出」だの「GMを抜いて世界一」などと浮かれていたのは、実は竹馬利益だったことがわかります。
この時に二重のメリットを浴びていたから、サブプライムバブルが崩壊すると一転「世界経済の墜落」に「急激な円高」という二重苦を浴びる羽目になったのです。バブル期に世界に追随して金利を上げていれば円安の進行も少なく、その分バブル崩壊時に金利を下げて金利差の縮小を抑えていれば、円高の進行も抑制できた。つまり急峻な山なりになっているグラフが、丘のようになだらかな勾配になっていたはずなのです。もちろんその場合、2007年の日本企業の業績は「バブル超え」とは行かなかったかもしません。
デフレがあったから金利を上げられずバブル期の円安を放置した以上、バブル崩壊期に円高が進行するのは避けられない。円高が嫌なら、それ以前の円安を諦めるしかない。それだけの事だと思います。要するに、バブル期も円安、崩壊しても円安。ずっと円安という日本だけの都合が通る訳がないと言う事です。
2007年に「ユーロやウォンに対して円が安過ぎて欧州企業や韓国企業に対して我々は不当かも…」なんて誰も言わなかったのに、今になって「ユーロやウォンが安過ぎて連中は不当に有利だ」と言って為替介入を実施するのは、あまりみっとものよい事とは思えません。

結局、当面の円高は回避できないようです。でも、悲観することはないと思います。円安が「売るのに有利」なように、円高は「買うのに有利」です。
石油も小麦も牛肉も、今までよりも少ない支払いで買う事が出来ます。日本航空は円高のおかげで決算の首の皮がつながったようです。

上期の営業利益ついて、稲盛会長は「過去にないような素晴らしい内容の数字になる」と述べ、「半期で1000億円ぐらいの利益が出る会社になっても、決して浮かれてはいけない」語った。コスト削減や、円高・ドル安による燃料油コスト低減効果を挙げた。

http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920019&sid=a7UTPM97ULQI

例えば韓国サムスン電子の時価総額は115兆ウォン(2010年11月8日現在)となっています。これを2007年6月の100ウォン=13.3円の円安レートの時に買収しようとすると約15兆3000億円という巨額の資金を必要としますが、今日の100ウォン=7.29円であればたった8兆4000億円で乗っ取る事が出来ます。大安売りです。まぁサムスンは無理かもしれませんが、他の韓国企業も同じディスカウント率です。
韓国企業だけでなく、中国で店舗展開するのも、ベトナムに工場建てるのも*3、欧州企業を買収するのも、米国企業に出資するのも今なら非常に有利に進められます。パナソニックトヨタが相次いでテスラに出資していますが、5000万ドル出資するのに1ドル120円なら60億円もかかりますが、80円なら40億円ぽっちで済みます。三井住友銀行が1日にNY証券取引所に上場しましたが、今後は「海外での利益の比率を現在の20%から30%程度まで高めたい」と述べた。その過程で「既存の金融機関に投資したり、買収したりする可能性も否定しない」と表明しています。
強い円を世界中に投資すれば、日本人が働かなくても、円が働いて配当など利益を日本にもたらしてくれます。

円高対策の切り札は「(日本の個人や法人が)米国の工場とか豪州の(鉱)山とか、ありとあらゆるモノをドル決済で買えばいい。政府は購入者に税優遇のインセンティブを与えればいい」と持論を展開した。斉藤社長は1980年代、野村証券の米国現地法人副社長を務めた。「私自身、バブルの頃には米国のビルとかゴルフ場とか買ったが、あの勢いで」と付け加えた。

http://www.asahi.com/business/update/1027/TKY201010260601.html

東京証券取引所・斉藤社長の発言は政府の無策を揶揄したもののようですが、これはイヤミでなく正論だと思います。円高は円の価値が上がる事なのですから、デメリットばかりに注目せず、今こそ円を「使う」べきだと思います。

*1:グラフはここで作りました。便利。

*2:政策金利は以下の通り。日本=無担保コール翌日物、米=フェデラルファンド金利、欧州=主要リファイナンシングオペ最低入札金利、以上三つについてはここを参照。韓国=BASE RATEでここを参照。中国=1年物貸出基準金利で、ここここを参照しました。

*3:ベトナムの通貨ドンは概ねドルとペッグ