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水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

時効廃止が「苦しむ被害者」を増やす

改正刑事訴訟法と改正刑法が27日に成立、政府は両改正法を即日公布・施行しました。これまで25年だった殺人や強盗殺人の公訴時効は廃止。傷害致死など殺人以外で人を死亡させた罪の時効期間は2倍に延長され、例えば最高刑が無期懲役の強制わいせつ致死や強姦致死の時効は30年になりました。テレビを見ると、時効が迫っていた殺人事件の遺族がこれを評価し安堵する様子が報道されていました。
しかし私には、法改正によって苦しむ被害者はむしろ増加するのではないかという気がします。殺人事件の時効はこれまで年40-60件程度発生しており、これらが全て捜査対象のままとなると10年後には約500件も捜査事案が増えることになります。殺人以外の致死事件の時効延長を含めれば事案数はもっと多くなります。ウン十年前の事件に人員を投入し続けると言うことは、その分昨日今日起きた事件に投入される人員が減ることで、限りある捜査リソースを多くの事案に分散させることで結果的に検挙率を下げるのではないかという懸念です。

以下に、時効撤廃を求めてきた「殺人事件被害者遺族の会」(宙の会)の趣意書を一部引用します。

私たち遺族の犯人への憤りは増すことがあっても薄れることは決してありません。他方、このような殺人事件が一件でも少なくならないかという強い願いがあります。その根底には、殺害された者そして遺族となった私たちと、同じような無念の生涯を味わっていただきたくないという思いがあるからです。そのためには、時効制度を撤廃し、人を殺害したら厳刑に至るという条理が保たれてこそ叶うものと考えております。

http://www.jikou74.jp/about/index.html

この文章のLOGICを分解するとこうなります。 [時効廃止→犯人が逮捕され厳刑に服する→殺人事件の減少→苦しむ遺族の減少] 時効廃止は目的ではなく手段に過ぎません。捜査を続けてもらえれば遺族は癒される訳ではなく、犯人逮捕が達成されなければ意味がありません。犯人が逮捕されて初めて遺族も報われ*1、抑止効果が次の被害者を減らすのです。私には、 [時効廃止→検挙率低下→未解決殺人事件の増加→苦しむ遺族の増加] という不幸なストーリーが見えてしまいます。

宙の会を批判する意図はありません。が、冷淡に言えばこれはトレードオフの問題であり、パイの奪い合いだと思います。
つまり「既に発生した・又は時効が迫っている過去の殺人事件の被害者」にとっては、時効が廃止されて捜査が永遠に続く方が利益。他方「これから発生する・または昨日今日起きた殺人事件の被害者」にとっては、ウン十年も前の事件の捜査なんか止めてこっちの事件の捜査人員を増やしてもらうほうが利益です。あるいは「殺人又は致死事件の被害者」にとっては時効の廃止・延長が利益。他方「強盗や傷害など人が死んでいない事件の被害者」にとっては、ウン十年も前の殺人事件の捜査なんか止めて(以下略)です。
時効廃止は宙の会の方々にとっては利益でも、それ以外の人にとっては不利益(自分が今後何らかの犯罪の被害者になった場合、犯人が逮捕される可能性を下げる)かもしれません。皮肉な言い方をすれば、宙の会の会員がますます増えるかもしれません。

データを示すことは出来ませんが、犯人が逮捕される率は年数が経過するほど右肩下がりに低下するのは事実だろうと思います。時効廃止が犯人逮捕に逆行するのではないかと言う想定を元に、「公訴時効を廃止・延長する代わりに、新たに捜査期限を設定する」というのはどうでしょうか。
殺人事件の場合、2004年の刑事訴訟法改正以前は公訴時効が15年でした。例えばこの15年を捜査期限として、15年を過ぎれば一旦積極捜査は終了して人員を解放し新たな事件に振りむけるのです。しかし公訴時効はありませんから、20年後でも30年後でも犯人が見つかれば逮捕し起訴することは出来ます。捜査していないのに犯人が見つかるというのは、別件で逮捕された犯人のDNAを鑑定したら、こちらの事件の証拠と一致したというようなケースです。殺人ではありませんが、例えばこんな事例があります*2あるいは、科学・捜査技術の進展で、残された証拠から犯人を特定できるようになる場合もあるかもしれません。担当課を設けて、新技術の適用で解決可能になった案件がないか、コールドケースを定期的にリサーチするのもいいかもしれません。
そうすれば、貴重な人員は成果が出やすい新しい事案に集中させつつ、既に起きた犯罪の被害者(または遺族)になってしまった人は、時効によって犯人逮捕の可能性がゼロになることを回避できます。

*1:犯人が逮捕されれば遺族の苦しみが癒されるのかという疑問は、また別の問題として置いておきます。

*2:引用した記事でも、捜査リソース不足が問題になっていると書かれています。30年前の事件捜査を続けることは、リソース不足を悪化させるはずです。