デフレ返済・インフレ返済
900兆円の国の借金をどう解消するか?。これには、真面目にコツコツ返済する(デフレ返済)か、一気に踏み倒す(インフレ返済)かという選択肢があります。
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まず、真面目に返す事を考えてみます。2010年税収見込みの37兆円は異常事態であり、増税せずとも45兆円程度までは勝手に戻ると(甘く)仮定します。歳出予定は92兆円ですから、税収不足は47兆円。そこから65兆円収支を改善させて差し引き18兆円ほど単年度財政黒字を捻出するシュミレーションをしてみます。
65兆円のうち44兆円を増税で賄います。福島瑞穂消費者・少子化担当相は以前、所得税や法人税の最高税率を引き上げればいいと主張されていました。現状でさえ他国に比べ高い法人税を更に引き上げるのは相当難しいと思いますが、それが出来たとして期待される税収増は4兆円程度だそうで*1。焼け石に水です。残りを消費税にすると、現行税率5%で10兆円の税収なので、40兆円は20%相当。結果、消費税率は25%になります。北欧の高福祉国家級最高水準の消費税率ですが、止むを得ません。
残り21兆円を歳出削減で何とかしましょう。
項目 | 1991年 | 2009年 | 2010年 | 削減案 | 対2010年比削減率 |
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社会保障 | 12.1 | 28.2 | 27.3 | 22 | -19% |
公共事業 | 7.4 | 9.4 | 5.8 | 3 | -48% |
文教・科学 | 5.6 | 6.7 | 5.6 | 4 | -29% |
防衛 | 4.4 | 4.9 | 4.8 | 3 | -38% |
その他 | 9.7 | 16.3 | 10.0 | 5 | -50% |
地方交付税等 | 15.8 | 16.6 | 17.5 | 13 | -26% |
国債費 | 15.5 | 20.3 | 20.6 | 21 | |
(単位:兆円) | 0.7 | ||||
合計 | 70.5 | 102.4 | 92.3 | 71 | -23% |
左列から順に、1991年の歳出、補正後の2009年、2010年の概算額、2010年から21兆円予算削減して71兆円にしたもの、対2010年予算削減率の順です*2。
1991年を参考に記載しているのは、歳出が71兆円で2010年比マイナス21兆円と、今回の目標に合致しているためです。でも1991年と2010年を比較して見ると、増加しているのは社会保障の+15兆円と国債費の+5兆円がほとんどで、後はせいぜい地方交付税の+2兆円。それ以外の項目は増加していないことが分かります。で、2010年から21兆円削るとどうなったかと言えば…。公共事業を2009年の3分の1にまで減らし、文教費を3割・防衛費も4割カットし、経済協力・エネルギー対策・中小企業対策などを含む「その他」を無理矢理半減させ、地方交付税を一方的に4兆円カットしても、それでも社会保障費を5兆円も削らないと予算を21兆円減らせない、ということです。平たく言えば、「実現不可能」です。
無理矢理こうした予算を組めば、国民から89兆円税金を巻きあげて、歳出は71兆円ですから猛烈な不況になるでしょう。かつ、政府による所得の再分配機能が大幅に喪失し、生活保護などのセーフティネットは崩壊するでしょう。しかも、ここまでやっても財政黒字はわずか18兆円。900兆円の借金を(ゼロにとは言わないまでも)大幅に減額させるには、こうした予算を十年二十年と続けなければなりません。
自分の親や祖父母の代が勝手に積み上げた借金を返すために、子や孫が重税とセーフティネット崩壊が同居した悲惨な社会を受け入れて耐え続ける理由があるでしょうか?。やはり、これは無理でしょう。
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真面目に返済するのは無理そうなので、次に踏み倒す事を考えます。インフレで借金を事実上踏み倒すと言う技を、日本は既に一度使っています。第二次大戦終了直後、日本ではハイパーインフレが発生。日本銀行調査の消費者物価指数によると、1934〜36年を1とすると、インフレがおさまる1954年は301.8になっています。物価が300倍になるということは、過去の借金の価値は300分の1になり、実質的に借金額の99.7%を棒引きにできます。つまり、1940年にお国の為に購入した国債600円は、当時の物価なら白米が2t以上買えた金額だった*3ものが、戦後償還された600円+αは、白米10kgも買えないお金になっていた*4という訳です。戦争末期の1943年には「金を借りた時点でのGDPの(当時はGNPかな?)の133%に達していた借金」が、返す時にはインフレのおかげで「安い金額」に化け、形式上はデフォルトせずに返済する事が出来た訳です。
この手をもう一度使えば、300倍までいかなくても物価を100倍にすれば名目GDPは5京円になるので、900兆円はGDPの1.8%になります。これなら返済も楽勝でしょう。日銀の資料では、1945年の物価指数が13で1948年が189ですから、物価100倍化でよければ混乱期間はたった3年で済みます。
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この二つの方法を比較します。もちろん両方とも国民全体に甚大な被害をもたらしますが、被害の出方は少し違います。
前者のデフレ返済では、重税に加えて教育もボロボロになり健康保険も年金も生活保護も崩壊するでしょうから、重税に耐える事が出来て教育や医療費や老後の生活費を自前で用意できる人が生き残り、政府による福祉機能を必要とする貧しい人がより被害を受けるでしょう。後者のインフレ返済では、国債や預貯金など円建ての金融資産が大幅に(例えば100分の1に)目減りするので、資産を持つ人が損をします。900兆円の借金は消えるのでなく、インフレによる金融資産の目減りで返済されていく訳ですから。他方、貧しい人、つまり今月の賃金で今月の生活を支えている自転車操業の人は、資産がない分受ける損害が少なくて済みます。月々の賃金はインフレに合わせて名目的には増額されるので(インフレを全て埋めるだけ増額されるかどうかは分かりませんが)、フローの方がストックよりは被害が少ないでしょう。
この先日本は貧しい人が増えるでしょうから、民主主義の下では多数派が望む解決策=インフレ返済が選ばれるのではないかと言う気がします。そうなりそうだ、と金融機関やお金持ちの人が察知し、自らの円建て資産を外貨に逃避させようと殺到した時。その時に国債と円の暴落、金利の暴騰となってインフレ返済を現実化する引き金になるのかもしれません。