水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

温室効果ガス25%削減の勝機

地球の未来のために、という理想論でなく損得勘定で温室効果ガス排出削減を考えてみます。
産業界がこの目標に反対するのは「排ガスを減らすために巨額の企業負担が発生して、国際競争力を低下させる」という理由。中国やアメリカといった他国が同様の削減をしない場合、それらの国の産業は追加的な省エネ投資負担なしに引き続き安いコストで物を生産出来て、日本の産業だけが厳しい省エネに取り組んだ分の割高なコストを背負わされて価格競争力を失い、企業業績が悪化する。損だという計算です。
この計算は前提として「今後、石油・石炭・LPGなどの化石燃料の価格はあまり上がらない」という想定になります。石油の価格が上昇すれば石油を買うことが高コストの原因になりますから、「省エネ投資負担なし」の産業=排ガスを多く出す=石油を多く買わざるを得ない産業ほど価格競争力を失い、国富が産油国へと流出し、国内のインフレと不況を加速させることになります。逆に「厳しい省エネに取り組んだ」産業ほど有利になり、コスト競争力に勝り、国も相対的にスタグフレーションを軽減することができます。
どこかに「排ガス削減に要するコスト<高価な石油を買うコスト」となる石油価格があるのではないかと思います。
実際に過去の石油ショックでは、欧米に比べ高い省エネ能力を持っていた日本がいち早く(相対的に)不況を脱し、日本製品・日本企業の競争力を高めました。

さて、この先石油価格は上がるのか?、という話です。2008年7月11日にWTI先物は最高値1バレル147.27ドルとなりました。あの時期の日本は大騒ぎでした。石油だけでなく鉄もLPGも銅もコバルトもあらゆる資源の価格が高騰。紙もペットボトルも鉄屑もぼろ布も、なんでもリサクイクル業者が奪い合い、排水溝の蓋や電線や公園の車止めポールが盗まれ、超高値と化した希少金属を回収するために携帯電話やらパソコンが都市鉱山と呼ばれていました。
数年間でハイブリッド車市場は劇的に拡大。プリウスを擁するトヨタがGMを抜いて世界最大の自動車メーカーに躍進するのに一役買いました。世界中の自動車メーカーはトヨタに負けじとプラグインやら二次電池式やら燃料電池やら様々な化石燃料回避型自動車開発にしのぎを削り、自動車以外でも太陽電池を筆頭とする化石燃料回避型エネルギー源の開発も急速に進みました。
結局あの価格は、膨れ上がったサブプライムバブルが生んだウタカタの高値でした。バブルは崩壊。しかしあの時投機マネーは「実需の増加による価格上昇が予想される」から買いに殺到したもので、投機は値動きを過剰にしましたが、値上がりという方向は決して理由なき幻想ではなかったと思います。リーマンショック処理を終えて、中国やインドといった新興国だけでなく欧米各国が相応な成長を取り戻した時、再度実体を伴う資源価格の高騰がおきても何も不思議はないと思います。
そうなれば、2008年の石油価格高騰がトヨタを利したように、温室効果ガス25%削減はコストでなく、石油を買う量を減らせる競争力に転ずるのではないでしょうか。

鳩山総理は、温室効果ガス削減について「世界のすべての主要国による、公平かつ実効性のある国際枠組みの構築が不可欠です。すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、我が国の国際社会への約束の前提となります。」と演説しています。日本企業だけが孤立して、あるいは先行して費用負担する公約ではありません。
それはそれでいいと思いますが、それでも意欲的に取り組むか、世界の動きの後ろから付いていく消極さに徹するかでは大きな違いがあります。
消極策は「ローリスク・ローリターン」と言えます。石油価格が上がらなければそれで良し。新石油ショックが来れば痛手を被るが、それは他国も同じなので相対的に損ではない。得はしないが損もしない戦略です。対する意欲的対応は「ハイリスク・ハイリターン」。石油ショックが来れば省エネ投資が利益を生み出しますが、石油価格が上がらなければ損します。
ジリ貧の日本。私としては周囲を窺い後からついていくより、「人の行く道の裏に花あり」に勝機があるような気もしますが。どうでしょうか?。