水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

「法人税を下げないと、企業が日本から流出する」の、逆とか裏とか待遇みたいなもの

命題「AならばBである」
逆「BならばAである」
裏「Aでないならば、Bでない」
対偶「Bでないならば、Aでない」

「日本の法人税率は高すぎる。これをもっと下げないと、企業がどんどん日本から海外へ逃げ出してしまう。」という脅迫をよく受けます。「日本に企業が残らないと結局あなたたち労働者が困るでしょ。だから法人税率を下げましょう。それがあなたの為ですよ。」と。そう言われるとビビってしまいます。
法人税を下げないと、企業が出ていく」と言われると、単純な私などはついつい「企業が出ていくのは、法人税が高いから」で「法人税を下げれば、企業は出ていかなくなる」のだろうと思ってしまいます。…んん?。


80年代後半、急激な円高を受けて自動車工場などの海外流出が急速に生じました。移転先は欧米先進国が中心。主な理由は(1)そこが重要な(巨大な)市場で、(2)国内工場では円高で赤字になるから、の二点です。(貿易摩擦回避という政治的動機もありましたっけ。)
90年代以降も、製造業中心に企業の海外移転はどんどん進みました。今度の移転先は中国を筆頭とする新興国が中心。主な理由は(1)人件費が圧倒的に安いし、(2)そこが重要な(急成長中の)市場でもあるから、の二点。
企業立地を考える時、市場性・為替リスク・人件費などの影響の大きさに比べると、法人税の10ポイント引き下げ分など瑣末です。為替が振れればそんな差額は吹っ飛んでしまいますし、人件費の圧倒的格差を埋めるほどの効果もありません


結局、「企業が出ていくのは、法人税が高いから」ではなく他にもっと影響の大きな要素があるし、「法人税を下げても(残念ながら)、出ていく企業は出ていく」。法人税引き下げには、さして企業の流出を抑止する効果がないように思えます。


製造業以外はどうでしょう。最近は日本のスーパーやコンビニが中国にガンガン進出しています。でも、上海にヨーカドーを出店したからと言って、東京の店舗を閉めることはありません。トヨタやシャープなら、世界で売れる台数というパイ総枠があるので、海外に新工場建てればその分日本の工場閉めることもあるでしょうが、三次産業には関係ありません。三井住友銀行のバンコック支店が急成長していても、その分大阪の支店を縮小する必要もありません。
PARCOとかUNIQLOとかピザーラとかエイブルとかDOCOMO-SHOPとかヤマト運輸は、どれだけ法人税が安くてもケイマン諸島に店を構えて名古屋市民相手の商売することはできません。野村証券三井物産電通も、海外の拠点から日本のビジネスをするのは困難でしょう。三次産業の多くは物理的に国内に立地していないと商売ができず、法人税率を嫌って日本を離れることができません。
だからこそ、H&MやFOREVER21やIKEAは、たとえ法人税が高くても、日本「にも」進出している訳です。日本市場に魅力があって成功する自信があるなら、法人税率が100%だというのでなければ、進出するメリットはあります。


三次産業の物理的立地制約は、IT技術の進展で例外も生じています。例えば企業のコールセンターが中国にあるというのは良く聞く話です。仙台で電話かけても相手は大連で、日本語の話せる優秀な中国人が答えているとか。あるいはシステム部門アウトソーシング先がインドとかも聞きます。でも、これらの海外移転の原因は製造業同様に人件費で、法人税を下げても戻って来てくれそうにありません。


もしかすると、「村上ファンド」は日本の法人税が安ければシンガポールに出て行ったりはしなかったのかもしれません。私は投資ファンドを「虚業だから日本に必要ない」などと言うつもりはありません。高賃金の雇用を生む立派な産業だと思います。
ただ、そうした事例は少ないのではないでしょうか。財政赤字が酷い事になっている今の日本にとって、法人税率を10ポイント下げることで失う税収は痛手です。それに見合うほど、税率引き下げで日本に留まったり日本に進出してくれる企業があるのか。疑問に思います。