水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

ヒトラー著「わが闘争」を読めるのは日本だけ。 へぇー、へぇー。 しかも、もうすぐ駄目になるかも。 へぇー。

なんだかとてもトリビア(懐かし…)です。マンガ版「わが闘争」の売れ行きが好調だが、その出版には賛否両論あるという話なのですが、ポイントはこの二点。

・「わが闘争」は現在、ドイツで新刊が手に入ることはない。著作権者のバイエルン州が、ナチスの犠牲者への配慮から戦後一貫して出版を認めてこなかったからだ。外国への対応も同様で、00年にチェコで許諾なく出版された際、州政府は厳重に抗議した。
・日本では角川文庫版で73年から刊行されている。(中略)主要国では日本にだけ特例的に認められた規定を根拠に出版したという。

http://www.asahi.com/national/update/0902/TKY200909020105.html

ね。へぇー、へぇーでしょ。タモリさんでもボタン押す話でしょ。


前段の、ドイツが国内外問わず「わが闘争」の出版を許可していない、というのはとても意外です。もし日本で近衛文麿の著作や東条英機の「戦陣訓」を発禁にすると政府が言ったら(出版して売れるかどうかは別にして)どうなるでしょう。右翼が激怒するだけでなく、左翼でさえ「思想を理由に国家が出版の自由を侵すのはおかしい」と反対するでしょう。思想の自由・表現の自由を生み育ててきた欧州にしては、出版禁止と言うのは随分乱暴な措置です。ヒトラー以外にも「発禁物」があるのか、興味があります。


後段の「日本だけ特例」というのも、大変興味深い話です。ベルヌ条約と言う著作権に関する国際条約が特例の根拠になっているのですが、
大杉重男/翻訳者の資格(抄)
翻訳権について
まとめると、こうなります。
(1)日本がベルヌ条約に加盟した1899年(明治32年)当時の同条約(1896年パリ改正版)には「書物が刊行されて10年経って翻訳がなければ翻訳権は消滅し、基本的にそれ以降、翻訳は誰でも自由にできる」旨の条文があった。
(2)この「10年規定」は1908年のベルヌ条約ベルリン改正の際に削除されるが、日本は「留保の権利」が認められ引き続き「10年間翻訳が出なければ、後は勝手にタダで翻訳出版OK」が容認された。
(3)1971年、日本の新著作権法が制定され、そこでようやく「10年規定」も撤廃された。
(4)ところがその際「1970年以前に出版されたものに対して遡っては新法を適用しない」旨の著作権法附則第八条があり*1、結局1970年以前の著作物については今なお「10年規定」が使えることになっている。
(5)ちなみに、著作権法附則第八条には「翻訳権の存続期間についての経過措置」と書かれている。


なんていうか、かなり疑問を感じる現状ですね。(1)(2)については妥当な気がします。当時の日本は後進国ですから、できれば著作者にお金払わずに欧米の文献をどんどん翻訳して日本で活用したい。ベルリン改正の際に日本が留保を求めたのに対し、欧米が寛容なのも時代を考えれば理解できます。
でも、(3)1971年まで留保し続けたのも多少やりすぎな感じがありますし、(4)(5)「経過措置」のはずなのに1971年から40年近くたってもそのままというのは、正直「ズル」という印象が拭えません。「暫定税率」とか「時限立法」だったはずのものが、いつのまにか既得権益化している各種法令に似ている気もします。

これって、日本が「我が国では10年規定を使い続けるもんねー」と一方的に宣言すれば、それで通用するものなんでしょうか?。国際法に無知でわかりませんが…、権利を侵害されている海外の著作者から訴えられたりしないのでしょうか?。
たまたま見つけたチェス関係文献の翻訳者さんらしき方のBLOGを覗くと、翻訳権の10年留保特例について触れている個所がありまして…

私はこれを知って小躍りした。'70年までなら定跡書は古くてもフィッシャーの若い頃の著作(中略)まで入る。著者の死後50年以上だけだと世界チャンプでアリョーヒンくらいまでしか訳せないとはえらい違いである。
 念のためバベルの担当者に実情も聞いてみたが、法律通りに原著者へ断りさえ入れずに(日本の特例を知らない相手にわざわざ伝えるのは、たとえ裁判で勝てるとしてもやぶへびでしかない)出版しているという。

http://yumizuno.seesaa.net/article/26761336.html

「ダマ」ってことですね。むふふ、裁判で勝てるのかぁ…。


そういえば、世界的に騒動と化しているGoogleによる「絶版書籍をどんどん勝手にWEB上にupしちゃうよProject」がありますが、あれってまさに「ベルヌ条約」によって「日本の著作物はアメリカでも著作権が発生する。よってアメリカでの裁判の結果がアメリカの著作権に影響し、自動的に日本の著作権者にも影響する」っていう話なんですよ。ということは、日本の出版社や著作者がGoogleに文句付けるのなら、海外の出版社や著作者も日本の「一方的な10年規定無限延長」にも文句付けられるのではないか…という気がします。


ひょとして、もしかして「わが闘争」が読めるのは、今のうちだけ?、かもかも。 へぇー。