水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

医者に電話をかけさせるな

近年、救急患者の受け入れ病院が見つからない「たらい回し」が問題となっていますが、東京都で8月31日から新しい救急医療体制、人呼んで「東京ルール」が始まっているそうです。

救急医療体制の強化を図ります〜救急医療の東京ルール「救急患者の迅速な受入れ」に向けて(福祉保健局・東京消防庁)音声読み上げあり

従来、救急車に乗り込んでいる救急隊員が、ひたすらあちこち電話をかけて受け入れ先を探していたものを、
(1)救急隊員による受け入れ先探し→(2)それでダメなら「地域救急医療センター」による受け入れ先探し→(3)それでもダメなら「救急患者受入コーディネーター」による受け入れ先探し という三段階に分けるというものです。

一見もっともらしいシステムですが、大きな問題が二つあります。
一つ目は「電話をかける担当者が三段階に変わっていくだけで、医師やベッド数が増えている訳ではない」ことです。たらい回しの原因は、医師が足りない・ベッドが足りないから受け入れられないのであって、救急隊員の交渉能力(?)の問題ではありません。救急隊員が電話かけても、「地域救急医療センター」や「救急患者受入コーディネーター」が電話をかけても、その病院に医師がいない・空きベッドがないのであれば結論は変わりません。無意味です。
二つ目は(こちらがもっと深刻な問題なのですが)、第二段階の「地域救急医療センター」が、実態は現場の医師だということです。

聖路加など25病院が「地域救急医療センター」に―東京都

記事の通り、「地域救急医療センター」というのは各地区の中核病院であり、受け入れ先を探してあちこち電話するのは、その時勤務している医師です。つまり地域救急医療センター役に指定された医師は、目の前で治療を待っている患者を放置して、救急車の受け入れ先が見つかるまで電話をかけ続けなければいけないのです。
考えてみて下さい。「医師がほうぼう電話をかけて、その間救急隊員は待機している」のと「救急隊員がほうぼう電話をかけて、その間医師は目の前の患者の治療に専念する」のと、どちらが多くの命を救えるでしょう?。

地域救急センターの指定要件として「地域内の患者受け入れの調整役として、働く医師がいる」というものが挙げられていますが、*1そんなヒマな医師がどこにいるのでしょう?。足りなくて困っている医師を更に治療現場から引き離して「電話番」に使うというのです。


どうしてこんなシステムが出来たのか、その理由の一端を記事に見てとることができます。

都救急災害医療課は、「たらい回しを防ぐには、地域の病院が責任を持って救急を支えるしかない」と話している。

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20081114-OYT8T00482.htm

同記事は、08年11月に「東京ルールを来年導入します」と決定した時のものですが、この「都救急災害医療課」とかいう官僚の言葉…。医師不足、ベッド数減少を生じさせた行政の責任を一切棚上げし、受け入れたくても受け入れ余力が無い地域の病院に責任があると言っているのです。だから、もう救急隊員で電話かけるなんてやってられないから、お前ら医師同士で押し付け合ってでも受け入れ先探せよ、と調整業務を丸投げしているのです。さすがは行政、無責任&責任転嫁の見本のような制度です。*2


思わず熱くなってしまいました。ではどうすれば良いのか、考えてみました。

可哀そうな医師による「地域内病院じゅうたん爆撃作戦」をしても、どうしても受け入れ先が見つからなかった時「東京ルール」には第三段階「救急患者受入コーディネーター」による受け入れ先探し、が設定されています。これは、東京消防庁指令室の救急救命士が務めるコーディネーターが他の地域のセンターと調整する、というものです。

もうお分かりだと思いますが、解決策は簡単です。「第二段階なんて必要ない。救急隊員が近隣病院で受け入れ先を見つけられなかった場合、次は東京消防指令室のコーディネーターが受け入れ先を探せばいい」です。
注意が必要ですが、現状の制度では東京消防指令室のコーディネーターが受け入れ先探しの主体になることはありません。例えば区中央部・聖路加病院の医師から「どうしても受け入れ先が見つからない」と連絡があった時は、区西南部・玉川病院に電話して「今度はお前の地区で受け入れ病院探せ」と命じるだけです。私が言っているのはそんな制度ではなく、東京消防指令室のコーディネーターが直接各病院に電話して受け入れ先を探すということです。

何故最初からそうしないのか?。推測ですが、東京都内の救急要請コール件数が膨大すぎて、病院の数が膨大すぎて、それを一元処理する大規模コールセンターを整備する人員も予算もない、ということでしょう。*3
しかし、どういうシステムにせよ「膨大な件数の調整業務」は消えてなくなるわけではなく絶対に存在します。現状は、それを12地区に分散して医師に押し付けているだけです。一見、コールセンターの設備費・人件費はかかりませんが、そのコストは「医師が電話にかかりっきりになり、患者が放置される」という「医療の質の悪化」に転嫁されているだけ。本末転倒もいいところです。

勤務医:「うつ」12人に1人 休日「月4日以下」46%

ただでさえ過酷な勤務に、更に「電話番」という余計な負担を背負わされた医師が燃え尽きて退職し、医師不足が更に悪化しないことを祈るばかりです。

*1:元ネタである「医療介護CBnews」が会員onlyなので、同記事をコピペしているBLOGをリンクしておきますhttp://mblog.excite.co.jp/user/fd005/entry/detail/?id=7666173

*2:同記事で「しかし、たらい回しの原因である医師不足が改善されるわけではない。医師を急患受け入れの基幹となる病院に集約するのでもない。センター病院の負担ばかりが増え、新ルールが絵に描いた餅になる恐れもある。」と、既に問題点は指摘されています。

*3:東京消防指令室のコーディネーターは常駐2名だそうで…。